一見普通のサラリーマン家庭、実情を見ると…
老後資金への関心が高まっている近年の日本。ミドル層、シニア層のみならず、若い世代も注意を向けている。年金への加入はもちろん、新NISAやiDeCoへの加入、不動産投資などさまざまな手段があるが、やはり王道はいまなお預貯金だ。
金融広報中央委員会『令和5年 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』によると、世帯の金融資産保有額は下記のようになっている。
30代世帯:平均856万円・中央値337万円
40代世帯:平均1,236万円・中央値500万円
50代世帯:平均1,611万円・中央値745万円
60代世帯:平均2,588万円・中央値1,200万円
横浜市在住の50代会社員の山田さん(仮名)は、自身の父親の相続時のことを話してくれた。
「私の父親は、ごく普通のサラリーマン、母親は専業主婦でした。私と3歳年下の妹は、それぞれ奨学金もなく大学と短大を卒業したのですが…」
山田さんの両親は「マニア」といえるほどの倹約家だったという。「衣食住はとことん切り詰める」というのが信条で、賃貸の古くて狭いマンションに暮らし、購入するのは激安商品ばかりだった。
「子ども時代はなかなか新しい下着も買ってもらえず、むこうが透けるくらい薄くなったものを穿いていました。小学生のとき、ついたあだ名は「セクシー」。修学旅行のとき、どれほど恥ずかしかったか…」
大学に進学後、山田さんはアルバイトに精を出し、身の回りのものをそろえ、なんとか周囲に追いつこうとつとめた。だが、両親からは嫌みをいわれてばかりで、ついには「そんなお金があるなら家に入れろ」と迫られることに。山田さんは必死で就職活動を頑張り、逃れるように家を出た。
「それより、かわいそうなのは妹ですよ。女の子なのに洋服は私のお下がり。長い髪はシャンプーが減るといって、母親が刈り込んでベリーショート。友達づきあいも全然していなかったように記憶しています」
「病気なんだから体調を優先して…」「金が減るじゃないか!」
3年前、山田さんの70代の父親が深刻な病気になって療養が必要に。しかし、年齢のこともあって明るい見通しは立たなかった。入退院を繰り返しながら、自宅で寝たり起きたりの生活をしていたが、驚くべきことに、健康だったときの生活習慣を変えようとしなかった。
もらった食品なども「もったいない」といってギリギリまでしまい込み、消費期限が過ぎてからようやく食べる。エアコンは使わず、夏場は大汗をかき、冬場は寒さに震える。山田さんがお見舞に立ち寄り、デパ地下で買った弁当を渡しても、半分残して「明日の分に」。
「〈病気なんだから、体調を優先して〉といっても〈そんなことをしていたらお金が減るじゃないか!〉というんです。それで〈一体どれくらい貯めているの?〉と聞いたら、冗談めかして〈もう1軒家が建つぐらい〉と…」
そのようななか、病気の父親の看護につとめていた母親にがんが発覚。かなり進行していて、それから半年後、母親のほうが先立ってしまった。
そばで看護してくれる人を失った父親は、家庭を築いて隣町に暮らす山田さんではなく、都内の賃貸マンションに暮らす妹に、同居を強要した。
「私が〈陽子(仮名)は自宅が東京だし、フルタイムの会社員が介護するのは大変だから、ヘルパーさんを頼もう〉というと、〈ただで働くやつがいるのに、なぜ金を使うのか〉と…」
「結局、妹が折れて同居生活がスタートしました。妹は残業を断って定時上がりをしたり、介護休暇を取ったり、有休を使ったりして、どうにかしのいでいました。私も土日は手伝いに行きましたが…」
そうこうしているうちに、父親の病状は次第に悪化。入院から3週間程度で眠るように亡くなったという。