クリニック開業には多額の資金が必要となります。本記事では、医師で経営者の髙松俊輔氏の著書『低単価の診療科で高収益を実現するクリニック・ドミナント戦略』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集し、開業資金の内訳とともに融資の受け方や医院承継による費用削減など、開業資金に関する実践的な情報を提供します。

開業に費用がかかる原因

診療科にかかわらず開業には多くの費用がかかります。私が開業した22年前と比較すれば、ますますお金がかかるようになっています。

 

その原因として第一に考えられるのは、医療機器価格の高騰です。かつては紙で管理されていたカルテも、今では電子カルテが主流となりました。これも時代の流れであり、若い医師のなかには紙のカルテを書いたことがない人も多いと思います。

 

また、耳鼻科で必須の内視鏡も電子内視鏡が主流となっており、かなり高額です。開業に向けて最低限の設備投資では患者を集めにくいため、流行るクリニックの運営を目指すのであれば、それなりに高度化した設備に惜しみなく資金を投入し、使用する必要があります。

 

第二の原因として不動産と内装工事費の高騰が挙げられます。昔は豪華な見た目のクリニックは「いかがわしいのではないか」と患者に不審がられることもありましたが、今ではきれいなクリニックが当たり前になっています。上品でゴージャス、おしゃれなクリニックも街中でよく見かけるようになりました。医療機器はリースをすれば当面の間なんとかなるにしても、敷金・内装費はキャッシュで払わなければなりません。

 

また、いざ開業しても保険診療で得た診療報酬がすぐには支払われないという問題もあります。日本の保険制度では、窓口での患者の診療費負担割合は0〜3割であり、一旦はその金額しか入ってきません。現行の保険制度では、診療報酬は翌々月に支払われるようになっており、例えば1月1日から1月31日までの1カ月の診療報酬は、3月後半に入ってくる仕組みになっているのです。

 

しかし、開業してからは、従業員の賃金や家賃、光熱費など、毎月の出費が重くのしかかってきます。開業1カ月目からいきなり黒字になることはあり得ず、多店舗展開してきた私でも最初から黒字になったことは一度もありません。開業後最低でも半年は赤字経営を覚悟しなければならず、設備投資費・内装費に加え、運転資金も半年分用意しておく必要があります。

 

自己開業であれば自分の給料をセーブすることで赤字を低く抑えることもできますが、分院開業では患者が少ないうちから医師の給料をキッチリ払う必要があります。そのため開業資金をどう工面するのかが重要となってきます。勤務医として50〜60歳まで働き続けていれば余裕があるかもしれませんが、仮に数千万円の貯蓄があったとしても、個人のお金としていくらかはキャッシュで残しておきたいので、すべてを開業資金に回すのは難しいものです。

 

一般的に、開業資金は銀行からの融資を活用します。私が開業したときは貸し手優位の時代だったので、期待した金額を満額用意することができませんでした。そのため、ギリギリの自己資金でクリニックを開業してしまいましたが、最近は昔と比べて低金利の時代となり、銀行も借り手を探している状態ですので融資を受けるには有利だと思います。

 

銀行がいちばん困るのは貸したお金が回収できないことなので、専門医の資格をもっていてそれなりの実績があれば、ひと昔前と比べて融資は下りやすい時代だと思います。

 

狙い目はもちろん金利の低い金融機関です。当たり前の話ですが、借りるときに信用があればあるほど金利は低くなります。大手メガバンクから借りることができれば、事業計画に妥当性があると見込まれているということです。逆に信用金庫や地銀しかお金を貸してくれないのは信用がないからです。事業計画にリスクが伴うと銀行に判断されているのです。

 

銀行員は私たち医師の臨床技術に関しては詳しく分からないので、医師としてというよりも、個人としての信用度を見てお金を貸します。信用度の一番の指標はこれまでのお金の使い方です。今までどのようなお金の使い方をしてきて、どのくらいの資産があるのかが一つの指標となります。

 

預貯金ゼロの医師が「1億円借りたい」と申し出ても信用されないため、融資を受けることは難しくなります。これまで1000万〜1500万円の年収があったのにまったく貯金ができていないのは、今までどういうお金の管理をしてきたのかと疑われて当然だからです。

 

金融機関から融資を受けるうえでもう一つ重要なのが、しっかりとした事業計画書を作成するということです。私たちのように長く法人を続けて、多店舗展開してきた実績があれば、それがエビデンスとなり銀行からの融資が下りやすくなりますが、勤務医が初めてクリニックをオープンするときは、まったく実績がありません。

 

そういうときには会計士・税理士に、整合性がとれている事業計画書を書けているのか相談するのがよいと思います。実現可能な範囲の事業計画を書けているのかどうか見てもらうのです。親身になって相談に乗ってくれる税理士・会計士がいると開業のときに心強い味方になってくれます。法人化するときにも、税理士や会計士なしではお金の管理が煩雑になります。

 

銀行も昨今では厳しい状況を強いられています。不景気のなか、銀行の営業職員も1人のサラリーマンとして自分の成績を上げるため、本当はお金を貸したいのです。しかし、彼らにとって貸したお金が返ってこないのがいちばん困ります。貸したお金が不良債権になると銀行員にとって減点となり、出世が困難になるからです。

 

そのため、銀行員は事業計画の整合性も確認しつつ、本当にクリニック経営できるような人間なのかどうか、借りる側の人間性も見ています。銀行員とのコミュニケーションすらまともに取れていないような人間だと、「この医者、クリニックを立ち上げて本当に患者を呼べるのか?」と不安にさせてしまいます。きちんとした人間性とコミュニケーション力があって、事業計画も整合性があれば、「開業しても大丈夫そうだな」と思ってもらえる可能性は非常に高くなります。少なくとも銀行員から「開業しても大丈夫そうだ」と思ってもらえなければ、融資は難しいのです。

 

 

髙松 俊輔

医療法人社団翔和仁誠会

理事長

 

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※本連載は髙松俊輔氏の著書『低単価の診療科で高収益を実現するクリニック・ドミナント戦略』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

低単価の診療科で高収益を実現するクリニック・ドミナント戦略

低単価の診療科で高収益を実現するクリニック・ドミナント戦略

髙松 俊輔

幻冬舎メディアコンサルティング

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