医療広告の規制が厳しい現代において、クリニックのブランディングは重要な経営課題となっています。その解決策の一つとして注目されるのが、サージクリニックを中心としたクリニック・ドミナント戦略です。本記事では、医師で経営者の髙松俊輔氏の著書『低単価の診療科で高収益を実現するクリニック・ドミナント戦略』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集し、サージクリニックがブランディングにどのように貢献するのか、同氏の経験を踏まえて解説します。

戦略の鍵を握るサージクリニックとは

サージとは、「surgery=手術」を意味する言葉であり、サージクリニックはその名のとおり手術を行うクリニックです。手術といっても局所麻酔で行う比較的簡単なものから、人工心肺を用いて心臓を一時的に停止させて行う手術までさまざまですが、私の法人のサージクリニックでは全身麻酔を要する手術を指します。

 

例えば眼科では、30年ほど前までは同じ手術でも大病院で行っていましたが、今では局所麻酔で日帰り白内障手術を受けるのが当たり前となっています。その意味では眼科のレーシックや眼内レンズ手術などは医療業界のサージクリニックの先駆けといえます。最近では耳鼻科以外の整形外科や消化器外科などでも、分野を特定したサージクリニックが増えています。

 

私たちのサージクリニックの場合は、耳と鼻、音声の手術に特化しています。そのなかでも副鼻腔炎の内視鏡手術や鼻づまり・アレルギーの手術、中耳炎の鼓室形成手術など、あえて対象を狭めています。耳鼻科領域の手術は多岐にわたるため、頭頸部がんなどの手術まで手を広げないことで、必要な機器も絞ることができるのです。広範囲に手を広げようとすると、それだけ必要な機器も増えてしまいますが、あえてニッチな分野にいくことで、必要な医療機器に十分投資ができます。 

 

医療法人を経営していて最も怖いのは医療事故です。医療事故は一度でも起きてしまえば、クリニックの評判にも影響します。この“一度の医療事故”をいかに起こさないかが、サージクリニックを経営する最大のポイントだと私は考えています。

 

そのリスクをできる限り低くするためにも、卓越したスキルを持つ医師を院長に選ぶことが必要になります。

 

なお、耳鼻科では小児の患者が多く来院されますが、小児専門のサージクリニックはあまり聞きません。それは、小児の手術自体のリスクが高いからです。麻酔のリスクもありますし、小児はもし何かが起きたときの予備能力が低いため、アナフィラキシーなどのショックなどが起きたときのバックアップ体制がしっかりした施設で手術をするべきです。

 

さらに、安全性を最も担保できる方法を考えた結果、多量の出血を伴うような手術はサージクリニックでは行わないという選択に至りました。簡単にいうと、ICUなどのバックアップ体制が整っていなければならないような手術はしないということです。

 

また、私のクリニックは耳鼻咽喉科専門のサージクリニックとして運営しているため、耳鼻咽喉科以外の他科の協力が必要となる手術も行わないことにしています。例えば頭頸部悪性腫瘍の手術は大がかりなものとなります。空腸などを移植する手術が必要な場合があり、これは耳鼻咽喉科だけではなく、消化器外科や形成外科との連携が必要です。輸血も大量に必要になる場合もありますし、術後はICUに入らなければなりません。そういった意味で悪性疾患の手術は、サージクリニックの対象にはならないのです。 

 

また、扁桃腺を取る手術も行っていません。これは耳鼻咽喉科のなかで最も簡単かつメジャーな手術の一つですが、私のクリニックでは行わないことにしています。なぜなら術後1、2%の割合で出血が起こるからです。サージクリニックは短期滞在型で、1泊や2泊の入院をうたっています。そのため、術後帰宅したときに出血が起こると問題になってしまいます。扁桃腺を取る手術自体はシンプルなものですが、以前は日本国内でも術後出血した血液が気管に入り込んで亡くなる例がありました。 

 

このように手術を行わない理由は一つのファクターではありません。安全性を第一に考えたとき、小児は対象から外れます。さらに、ICUの設備が必要な悪性疾患の手術や、術後出血のリスクが高い手術なども対象外となるのです。

地域全体で一貫性のある医療の品質を確保 

サージクリニックを中心にクリニック・ドミナント戦略を行っていくことで、特定の地域全体で一貫性のある医療品質を確保することが可能になります。

 

まず、ハブとなるサージクリニックを中心に医療方針や手順を統一し、最新の治療法や術式を共有することで、周辺のクリニックにおいて質の高い医療を提供できるようになります。また、サージクリニックと一般のクリニックとの間で患者情報の効率的な管理と共有が可能になり、一貫した医療サービスの提供につながります。さらに、サージクリニックとそれぞれのクリニックの医療スタッフが密に連携することで、より総合的で統一された医療サービスを提供できるようになります。

 

これらのメリットを活かして地域患者からの信頼を獲得できる点はクリニック・ドミナント戦略の大きな特徴といえます。

 

私はこれまで「クオリティーは大学病院、敷居の低さはコンビニ」を目標に医療法人を運営してきました。私のクリニックの開院当初は、医療機器もスタッフも十分ではありませんでしたが、患者に対するホスピタリティ、診察や処置は大病院の医師に負けないという自負でやってきました。

 

法人規模が大きくなり分院の数が増え、より多くの患者が満足できる診療を考えたときに思いついたのが、地域のかかりつけ医とサージクリニックの手術専門医が協力し、各地域での集患と高度医療提供の両立ができるこの仕組みだったのです。

 

手術のクオリティーは高くても敷居が高かったり、敷居は低くてもクオリティーがお粗末だったり、そのどちらであっても患者は来てくれません。クリニック・ドミナント戦略によって、クリニックとしての気軽さを維持したまま、大学病院以上の医療を地域患者に提供することが可能となったのです。それは患者にとっては、いつでもどこでも安心して受診できるということでもあります。

 

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※本連載は髙松俊輔氏の著書『低単価の診療科で高収益を実現するクリニック・ドミナント戦略』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

低単価の診療科で高収益を実現するクリニック・ドミナント戦略

低単価の診療科で高収益を実現するクリニック・ドミナント戦略

髙松 俊輔

幻冬舎メディアコンサルティング

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