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日本銀行に利益をもたらす「通貨発行益」とは?

最終回は、日本銀行に利益をもたらす「通貨発行益」について解説します。※本連載では、専修大学経営学部の佐々木浩二准教授による著書『ファイナンス ―資金の流れから経済を読み解く―』(創成社、2016年)の中から一部を抜粋し、2013年に日本銀行が始めた「量的・質的金融緩和」について、その概要を解説します。

日本銀行券の発行と引き換えに有利子の資産を保有

通貨発行益について短く説明します。マネーは日本銀行の負債に計上され,マネーを供給するときに買い入れたモノは日本銀行の資産に計上されます。負債に計上される銀行券と日銀当座預金はほぼ無利子であり,資産に計上される日本国債や貸出金は有利子です。通貨を発行する日本銀行の利益は,無利子の負債の見合いに有利子の資産を持つことから生じます。

 

マネーの発行量が増えるにしたがい,日本銀行の利益は増える傾向にあります。日本銀行がマネーをどれだけ発行できるかは,金融機関がどれだけの日銀当座預金を保有したいと思うか,私たち,企業,地方公共団体などがどれだけの現金通貨を保有したいと思うかによります(1)

日本銀行券に対する信認が通貨発行益を生む

有利子の資産を手放して日銀当座預金や現金通貨を保有するのは,これらが支払いを済ませる力と富を保存する力を持つためです(2)。この力の評価額を流動性プレミアムといいます(3)。マネーを保有するために手放す資産につく利子が流動性プレミアムを表すのであれば,次式が成り立ちます。

 

通貨発行益= 日本銀行の利益= 流動性プレミアム

 

金融機関,私たち,企業,地方公共団体が安心してマネーを持ち,日本銀行が最大の利益を得るとき,通貨発行益は最大になります。金融機関,私たち,企業,地方公共団体がマネーを持ちたがらず,日本銀行が利益を得られないとき,通貨発行益は0になります。日本銀行が通貨の番人であるのは,通貨発行益を最大にするためです。

 

(1) 長澤訳(2001,p.71)に「現代の銀行制度の〔集中的〕中央金属準備の大部分は,いまでもなお,一般には,〔その資金を〕公衆の手許にある活動的な銀行券発行〔残高〕によって,提供されているといえるのであるが,しかし静かな発展の趨勢は,政府が銀行券発行を歳入の正当な源泉と見做す方向にあり,そして加盟銀行が,〔集中的〕中央準備の維持のためにその〔資金の〕割当分を提供するように要求される」とある。中央銀行の資産利回りが0になっても負債の利回りをマイナスにすれば通貨発行益が得られるかもしれない。間宮訳(2009)の第23章,Hannoun(2015)を参照。

(2) 小泉・長澤訳(2001,p.3)に「貨幣それ自体は,債務契約および価格契約がその引渡しによって履行され,貯蓄された一般的購買力がその形をとって保持されるものであって,その特質はその計算貨幣との関連に由来する」とある。

(3)長澤訳(2001,p.70)に「銀行に対して,手許現金および手形交換尻決済のための厳密な必要額以上の準備の保有を要求する慣習は,中央銀行の通貨維持のために蒙る費用を,銀行に拠出させるための手段である」とある。

 

参考文献

・株式会社大阪取引所『国債先物・オプション取引市場の歩み(2005年~2015年)』2015年。

・黒崎哲夫・熊野雄介・岡部恒多・長野哲平『国債市場の流動性:取引データによる検証』日本銀行ワーキング ペーパーシリーズ,15-J-2,2015年。

・黒田東彦『量的・質的金融緩和―読売国際経済懇話会における講演―』2013年。

・齋藤雅士・法眼吉彦・西口周作『日本銀行の国債買入れに伴うポートフォリオ・リバランス:資金循環統計を用いた事実整理』日銀レビュー,2014-J-4,2014年。

・土川顕・西崎健司・八木智之『国債市場の流動性に関連する諸指標』日銀レビュー,2013-J-6,2013年。

・戸原四郎『ドイツ資本主義戦間期の研究』桜井書店,2006年。

・日本銀行企画局『「成長基盤強化を支援するための資金供給」について』日銀レビュー,2010-J-13,2010年。

・日本銀行企画局『「量的・質的金融緩和」:2年間の効果の検証』日銀レビュー,2015-J-8,2015年。

・日本銀行金融市場局『2008年度の金融市場調節』日本銀行調査論文,2009年。

・日本銀行金融市場局『2013年度の金融市場調節』日本銀行調査論文,2014年。

・日本銀行金融市場局『2014年度の金融市場調節』日本銀行調査論文,2015年。

・速水優『第10回国際コンファランス―「21世紀の国際通貨制度」―開会挨拶』金融研究,21, 4, 33-34,2002年。

・吉野直行・前田実・南部一雄・小巻泰之・坡山奇右『新種預金の導入と預金準備率』フィナンシャル・レビュー,26,1993年。

・Keynes, John Maynard著,小泉明・長澤惟恭訳『貨幣論Ⅰ 貨幣の純粋理論』ケインズ全集第5巻,東洋経済新報社,2001年。

・Keynes, John Maynard著,長澤惟恭訳『貨幣論Ⅱ 貨幣の応用理論』ケインズ全集第6巻,東洋経済新報社,2001年。

・Keynes, John Maynard著,間宮陽介訳『雇用,利子および貨幣の一般理論』下巻,岩波書店,2009年。

・Dornbusch, Rudiger, Federico Sturzenegger, and Holger Wolf, 1990, Extreme Inflation: Dynamics and Stabilization, Brookings Papers on Economic Activity, 2, 1-84.

・Hannoun, Hervé, 2015, Ultra-Low or Negative Interest Rates: What They Mean for Financial Stability and Growth, Bank for International Settlements.

・Turner, Adair, 2013, Debt, Money and Mephistopheles: How Do We Get out of This Mess?, Speech at the Cass Business School, City University.

専修大学経営学部 准教授

学位
School of Economics, Mathematics and Statistics, Birkbeck College, University of London, Doctor of Philosophy

職歴等
日本銀行金融研究所客員研究生、労働政策研究・研修機構アシスタントフェロー、大東文化大学経済学部講師などを経て現職。

著作
『ファイナンス―資金の流れから経済を読み解く―』(創成社, 2016年)、
『マクロ経済分析―ケインズの経済学―』(創成社, 2016年)、
“Financial Innovation” (大阪証券取引所先物・オプションレポート, 2011年12月号)、
“Proprietary Trading Losses in Banks: Do Banks Sufficiently Invest in Control?”(with Norvald Instefjord, in Annals of Finance, 3, 3, 329-350, 2007年)などがある。

著者紹介

連載大人のたしなみ経済学――日銀による「質的・量的緩和」の概要

 

ファイナンス ―資金の流れから経済を読み解く―

ファイナンス ―資金の流れから経済を読み解く―

佐々木 浩二

創成社

本書は、ケインズ『貨幣論』とバーリ=ミーンズ『現代株式会社と私有財産』を縦糸に、近年の制度とデータを横糸に、やさしい言葉で編んだ書籍です。 次のような疑問や知りたいことがある人にお勧めします。 ・たんす預金はど…

 

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