2年半で約500兆円 国債の大量買い入れを進める日本銀行

今回は、日本銀行が市場に資金を供給するために進めている、国債の大量購入について見ていきます。※本連載では、専修大学経営学部の佐々木浩二准教授による著書『ファイナンス ―資金の流れから経済を読み解く―』(創成社、2016年)の中から一部を抜粋し、2013年に日本銀行が始めた「量的・質的金融緩和」について、その概要を解説します。

331兆円の資金不足に対して,日銀は518兆円を供給

異次元の金融緩和をデータから読み解きましょう(1)。まず,日銀当座預金の総額の増減と金融調節の概要をみます。図表1の左図は,量的・質的金融緩和がはじまった2013年4月以降の資金過不足を累積値で表しています。銀行券要因は,発行高が増えたことを反映して資金不足をもたらしましたが,資金過不足全体からみるとごくわずかです。財政等要因のうち一般会計と特別会計を含む一般財政等は,年金の支給などを反映して資金余剰をもたらしました。長期国債と国庫短期証券は,いずれも資金不足をもたらしました。

 

これらを総合すると,2015年11月までの累計で331兆円の資金不足となります。図表2の右図は,資金不足を解消するために供給された日銀当座預金を累計値で示しています。331兆円の資金不足に対して,日本銀行は518兆円を供給しました。結果として,日銀当座預金は両者の差額187兆円だけ増えました。

 

図表1 日銀当座預金の増減要因と金融調節(2)

図表2 金融調節とハイパワードマネー(3)

上記の図表2の左図は資金供給の手段を累計値で表しています。長期国債の買い入れが259兆円,国庫短期証券の買い入れが243兆円と多くを占めています。図表2の右図は資金供給によって増えた日本銀行の資産を表しています。日本銀行が保有する国債の増分は,買い入れた国債の累計より少ないようです。日本銀行は,長期国債を259兆円買い入れましたが増分は187兆円にとどまり,国庫短期証券を243兆円買い入れましたが増分は12兆円にとどまりました。買い入れ累計より増分が少ないのはなぜでしょうか。

 

図表3はこの問いに答えるためのものです。左図は日本銀行が買い入れた長期国債のうち,満期を迎えて償還された額を内数で表しています。買い入れた259兆円のうち72兆円が償還され,増分は187兆円となりました。右図は日本銀行が買い入れた国庫短期証券のうち,満期を迎えて償還された額を内数で表しています。243兆円を買い入れ,35兆円を引き受け,266兆円が償還され,増分は12兆円となりました。

 

図表3 日銀保有国債の償還(4)

国債と資金が中央政府・金融機関・日本銀行を回遊

興味深いことに,日本銀行に償還された長期国債の元金72兆円と国庫短期証券の元金266兆円の和である338兆円は,資金不足の累計331兆円とそれほど変わりません。これはなぜでしょうか。

 

国債が満期を迎えると,政府は日本銀行に保有する政府預金で国債を償還します。したがって,政府が日本銀行保有の国債を償還するとき,日本銀行の資産である国債と負債である政府預金は減ります。政府が償還金を民間から調達すれば,日銀当座預金は減ります。国債の償還額累計と資金不足額累計に大きな開きがないのはこのためです。

 

図表4 償還金調達による資金減少(日本銀行のバランスシート)

巨額の資金不足を補うために,日本銀行は国債を買い入れて日銀当座預金を供給しました。国債は,それを発行する中央政府から,金融機関,日本銀行へとわたります。日本銀行へ償還金を払うために,中央政府は国債を発行します。金融機関が国債を買う資金は,日本銀行が金融機関から国債を買い入れて供給します。国債と資金が中央政府,金融機関,日本銀行を回遊しているようにみえます。

 

図表5 国債とマネーの回遊

(1)本節は日本銀行企画局(2015),日本銀行金融市場局(2014,2015)をもとに記述した。

(2)日本銀行,日銀当座預金の増減要因と金融調節からデータを取得し作成。財政等要因のうち一般財政等は,長期国債と国庫短期証券による資金過不足を除いた額である。

(3)日本銀行,日銀当座預金の増減要因と金融調節,日本銀行,マネタリーベースと日本銀行の取引からデータを取得し作成。右図のHMはハイパワードマネーである。

(4)日本銀行,マネタリーベースと日本銀行の取引からデータを取得し作成。

 

参考文献

・株式会社大阪取引所『国債先物・オプション取引市場の歩み(2005年~2015年)』2015年。

・黒崎哲夫・熊野雄介・岡部恒多・長野哲平『国債市場の流動性:取引データによる検証』日本銀行ワーキング ペーパーシリーズ,15-J-2,2015年。

・黒田東彦『量的・質的金融緩和―読売国際経済懇話会における講演―』2013年。

・齋藤雅士・法眼吉彦・西口周作『日本銀行の国債買入れに伴うポートフォリオ・リバランス:資金循環統計を用いた事実整理』日銀レビュー,2014-J-4,2014年。

・土川顕・西崎健司・八木智之『国債市場の流動性に関連する諸指標』日銀レビュー,2013-J-6,2013年。

・戸原四郎『ドイツ資本主義戦間期の研究』桜井書店,2006年。

・日本銀行企画局『「成長基盤強化を支援するための資金供給」について』日銀レビュー,2010-J-13,2010年。

・日本銀行企画局『「量的・質的金融緩和」:2年間の効果の検証』日銀レビュー,2015-J-8,2015年。

・日本銀行金融市場局『2008年度の金融市場調節』日本銀行調査論文,2009年。

・日本銀行金融市場局『2013年度の金融市場調節』日本銀行調査論文,2014年。

・日本銀行金融市場局『2014年度の金融市場調節』日本銀行調査論文,2015年。

・速水優『第10回国際コンファランス―「21世紀の国際通貨制度」―開会挨拶』金融研究,21, 4, 33-34,2002年。

・吉野直行・前田実・南部一雄・小巻泰之・坡山奇右『新種預金の導入と預金準備率』フィナンシャル・レビュー,26,1993年。

・Keynes, John Maynard著,小泉明・長澤惟恭訳『貨幣論Ⅰ 貨幣の純粋理論』ケインズ全集第5巻,東洋経済新報社,2001年。

・Keynes, John Maynard著,長澤惟恭訳『貨幣論Ⅱ 貨幣の応用理論』ケインズ全集第6巻,東洋経済新報社,2001年。

・Keynes, John Maynard著,間宮陽介訳『雇用,利子および貨幣の一般理論』下巻,岩波書店,2009年。

・Dornbusch, Rudiger, Federico Sturzenegger, and Holger Wolf, 1990, Extreme Inflation: Dynamics and Stabilization, Brookings Papers on Economic Activity, 2, 1-84.

・Hannoun, Hervé, 2015, Ultra-Low or Negative Interest Rates: What They Mean for Financial Stability and Growth, Bank for International Settlements.

・Turner, Adair, 2013, Debt, Money and Mephistopheles: How Do We Get out of This Mess?, Speech at the Cass Business School, City University.

あなたにオススメのセミナー

    専修大学経営学部 准教授

    学位
    School of Economics, Mathematics and Statistics, Birkbeck College, University of London, Doctor of Philosophy

    職歴等
    日本銀行金融研究所客員研究生、労働政策研究・研修機構アシスタントフェロー、大東文化大学経済学部講師などを経て現職。

    著作
    『ファイナンス―資金の流れから経済を読み解く―』(創成社, 2016年)、
    『マクロ経済分析―ケインズの経済学―』(創成社, 2016年)、
    “Financial Innovation” (大阪証券取引所先物・オプションレポート, 2011年12月号)、
    “Proprietary Trading Losses in Banks: Do Banks Sufficiently Invest in Control?”(with Norvald Instefjord, in Annals of Finance, 3, 3, 329-350, 2007年)などがある。

    著者紹介

    連載大人のたしなみ経済学――日銀による「質的・量的緩和」の概要

    ファイナンス ―資金の流れから経済を読み解く―

    ファイナンス ―資金の流れから経済を読み解く―

    佐々木 浩二

    創成社

    本書は、ケインズ『貨幣論』とバーリ=ミーンズ『現代株式会社と私有財産』を縦糸に、近年の制度とデータを横糸に、やさしい言葉で編んだ書籍です。 次のような疑問や知りたいことがある人にお勧めします。 ・たんす預金は…

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