最期は「自宅で過ごしたい」…在宅医療のニーズが高まっている
近年、病院のベッドではなく自宅で最期を迎えたいと考える人が増えています。その背景には、社会の変化に伴って行政が新たな医療のかたちを打ち出したことが挙げられます。その根底には、日本人が抱く「死生観の変化」があるのではないでしょうか。
ここ数十年の間で日本人の死生観に変化がおとずれたのには、2つの要因があると考えています。それを検討するには、日本人がこれまでに「どこで最期を迎えてきたのか」歴史を簡単に振り返る必要があります。
2000年ごろ、病院で最期を迎える人の数は約8割※を占めていました。ところが遡ること約50年前――戦後間もない1950年ごろの日本は、約8割の人が最期を自宅で迎えています。その割合が徐々に逆転しはじめたのが70年代。1900年代の終わりには、自宅で亡くなる人の数はついに2割未満まで減少しています。(なお、このような状況が、先述の行政が新たな打ち出しを行うきっかけとなりました)
※参照:厚生統計要覧(令和5年度)第1編 人口・世帯 第2章 人口動態 第1-25表 死亡数・構成割合,死亡場所×年次別|厚生労働省
“最期の瞬間”に家族は立ち会うことができなかった「病院死」
日本人の死生観に変化がおとずれた1つ目の要因は、こうした病院死の増加です。私が医師として働き始めた80年代の終末期医療の現場は「患者さんの心臓が止まったら、ご家族には外へ出て行ってもらってから、蘇生処置を行う」という方法が一般的でした。そのため、ご家族は亡くなる瞬間には立ち会うことができません。そうしたやり方に、ご家族のなかには疑問や違和感を抱く人もいました。
「もう長くないとわかっていながら、今際の際まで点滴の管や呼吸器に繋がれ、身体を酷使する蘇生処置を受ける必要があるのか」「最期の瞬間、家族がそばにいることができなくていいのか」
さらに時が流れ、終末期の入院患者に関する報道や、病院で家族を看取る経験をした人が増えるにつれてその疑問はますます深まることになります。「病院で最期を迎えることが本当にいいのだろうか?」という問題提起が広まっていき、固定観念に縛られていた日本人の死生観は徐々に変化することとなります。
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