介護施設経営で見直すべきは「職員」「利用者」「地域」の人のつながり
介護事業者にとって冬の時代を迎えた今、私はコロナ禍を経て希薄になってしまった人と人とのつながりを結び直し、職員、利用者、地域の人々までもが介護施設を起点として「ひとつなぎ」になっていくことが非常に重要だと考えています。
コロナ禍では感染を防ぐために職員も利用者もお互いにマスクをして、必要以上に会話や接触をしないことが求められるという今までにない経験を強いられました。そのインパクトはあまりに大きく、感染流行が収まった今でも職員間で必要以上の会話をしない介護事業者も多いです。また、職員同士の私語を禁じている施設も少なくありません。
さらに、いわゆる「新しい生活様式」に移行したことで、サービス業でも非対面・非接触でのコミュニケーションが身近なものになりました。飲食店ではスマートフォンやタブレット端末を使って注文できるようになり、ロボットが商品を運んできてくれるお店も一般的になりました。また、宅配サービスでも非対面で荷物を受け取ることができる「置き配」がコロナ禍明け以降も主流になっています。
もちろん消費者にとっての利便性が高まるなど、良い面もあります。しかし、その結果、働き手のコミュニケーション力の低下も顕著にみられるようになりました。他のサービス業のスタッフを見ても、コミュニケーションそのものが億劫だというような、挨拶すら満足にできない人も残念ながら見受けられます。
特に若者はリモート環境に慣れ、人と直接対話する機会が減ったことで、コミュニケーション力が低下しています。私の息子が通っていた大学もリモート授業中心となり、直接授業での質問も雑談もすべて禁止されました。
息子は通学に意味を見いだせず自宅に引きこもり、いわゆるコロナ鬱のような状態になってしまいました。その後、大学を中退し、名古屋市内で一人暮らしを始めると、バイト先でいい出会いに恵まれコミュニケーションを学ぶようになりました。ですが、残念ながらそういうケースばかりではありません。
他の介護施設の人に話を聞くと、こうしたコロナ禍の影響を強く受けた若い世代の職員の中には「人手が足りなくて困っているから、今これをやってくれない?」「助けてくれない?」と頼んでも「後でやります」「これが終わったらやっておきます」と自分のペースを優先して対応してくれない人もいるようです。
つまり相手の感情を思いやって対応するという、コミュニケーションの基本が身についていないのです。
一方で、介護施設でスタッフ間のコミュニケーションを深めようにも、まだ世間的に介護事業者や医療従事者の感染対策には厳しい目が向けられています。
他の業界では、コロナ禍前まであった職場の歓送迎会や定期的な食事会、飲み会などが復活しつつあります。しかし、介護業界ではそのような傾向はありません。少なくとも私の近隣の介護施設ではまだ再開されていませんし、私の職場でも2024年現在、飲み会や食事会は復活できていない状況です。
利用者側も、まだ感染への恐怖は完全には払拭されていないのか、話したり触れ合ったりするようなコミュニケーションを嫌がるような人もいます。また、コロナ禍で中止になった地域ボランティアの人たちとの交流や介護レクリエーションを通じた付き合いも、完全に元には戻っていない事業者も多いです。
いうまでもなく、介護の原点は人です。足元を見つめ直し、離れてしまった縁を結び直すことこそ介護業界の再生には不可欠なのです。
久野 佳子
デイ・サービス かなりや
代表取締役