負の連鎖を断ち切るには「人との結びつき」に目を向ける
介護人材不足による現在の危機的な状況に、どのように立ち向かっていけばいいのか悩める同業者は多いと思います。
私もその一人で、現在は愛知県碧南市にある、地域密着型のデイサービスとサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、訪問介護事業を営んでいます。
2000年に私の母が介護で悩む女性を家庭から解放したいと、未経験からデイサービスを創業したのが始まりです。以降、訪問介護やサ高住など少しずつ事業を拡大して今に至ります。
2023年、母の死去に伴い長らく共に働いていた私が有限会社デイ・サービスかなりや代表取締役のバトンを受け継ぎました。支えてくれているのは、30人ほどの従業員たちです。10代から80代までのスタッフが日々うるさいくらいにワイワイとにぎやかに働いています。
長い人では20年以上勤務するベテランスタッフもおり、職員の平均勤続年は10年を超えます。離職率が高くなりがちな介護業界の中で、非常に従業員の定着率が高い状況にあります。
また、職員のモチベーションも非常に高く、無資格で入った職員の多くが介護福祉士などの資格取得にも精力的に取り組み、質の高いサービスを維持できています。そのおかげで利用者からも評判が良く、2024年6月時点ではサ高住は満床、予約キャンセル待ちという状態になっています。
地方のごくごく普通の介護施設ですが創業以来24年間、安定的に経営を続けることができました。それは職員や利用者をはじめ、施設に関わってくれる多くの人が施設の応援団のようになって、さまざまな側面で経営を支えてくれているからです。
印象的だった出来事があります。近所のガソリンスタンドに立ち寄ったときに、スタッフの人から「お母さんは元気?」と尋ねられたのです。すでに亡くなったと伝えたところ、「実は今まで言わなかったけれど、以前から介護が必要な人がいたら、あんたの介護施設を勧めていたんだよ」と言われたのです。
まさかこんな近所にも、陰ながら私たちを支援してくれた人がいたとは驚きました。それもかなりやの職員たちがスタンドの人に元気に挨拶してガソリンを入れていたからこそ、支援の輪がつながったのだと思います。
このように笑顔で働く職員の様子を見て施設に入居を決めてくれたり、一緒に働きたいと思ってくれたりする人は、かなりやでは数えきれません。
介護は本来、人生の先輩である高齢者の生活に寄り添える、非常にやりがいのある仕事です。「ありがとう」という言葉を何度ももらえますし、対応の仕方によっては機能回復にもつなげることができ、目の前でいきいきとしていく高齢者の姿を見ることもできます。
また、AIに代替できない仕事であるため、今後高齢化が進む中で、必ず存続していく仕事であり、ニーズはこれからも確実に増大していきます。少子高齢化は日本だけでなく、アジアを中心に世界的な課題です。
そのため、日本の介護ビジネスを海外に展開していくことも可能で将来性のある仕事です。つまり介護のノウハウを持っている人は、世界中どこでも活躍できる可能性があるのです。
介護事業の経営には困難が伴いますが、介護を必要な人がきちんと介護サービスを受けられるようにするためには、安定的に運営し続けることが欠かせません。そこで、介護事業者は職場環境の改善を図り、基本的な人と人とのつながりに再度目を向けることが大切だと私は考えています。
久野 佳子
デイ・サービス かなりや
代表取締役