子どもたちの家庭を気遣い…独居を通した寡黙な父の「最期」
鈴木さんの母親が亡くなったあとも、子どもたちを気遣ってか、「大丈夫だ」「元気にしている」というばかりだったという鈴木さんの父親。
「たまに家族で顔を見せると、笑顔で迎えてくれましたが、最後まで子どもに頼るそぶりは見せませんでした…。金銭面も、生活面も」
「弟が年齢を重ねた父を心配して、同居を持ち掛けたのですが、〈お嫁さんに気を遣わせるのは悪いから〉と…」
中小企業勤務だった父親の年金は18万円程度で、手取りなら16万円ぐらいか。築古とはいえ、ローン返済ずみの自宅に暮らし、お金のかかる趣味もないようだ。また、もともとお酒が飲めず小食なことから、食習慣も健康的で、生活面での心配は少なかった。
「ところがある日、病院の関係者から、父が倒れて搬送されたとの連絡が入ったのです」
近所のスーパーに買い物に出かけた帰り道、突然倒れたのだという。
「住宅街だったので、そばの住人の方が救急車を呼んでくれました。近隣の総合病院に搬送されましたが、助かりませんでした…」
父の遺品整理…「あれ、そこにあるのは?」
鈴木さんの父親は末っ子で、遠方に暮らす伯父伯母はすでに亡くなっているか、介護施設に入所している。そのため、父親の葬儀は子どもたちだけでコンパクトに済ませた。
四十九日がすんでしばらくのち、鈴木さんきょうだいは遺品整理のために実家に向かった。鈴木さんも弟も自宅を保有していることから、実家は売却し、父親の遺産は等分にして相続手続きを完了することで決まっていた。
株式会社林商会が行った『遺品整理に関する調査』では、遺品整理を行ったタイミングとして最も多かったのは「葬儀後すぐ」で35.5%だった。次いで、「四十九日後すぐ」22.5%、「3ヵ月以内」20.5%となっている。また、遺品整理にかかった時間で最多は「1ヵ月以内」で22.0%。「1週間以内」17.5%、「3日以内」12.5%、「3ヵ月以内」12.0%となっている。
「長く住んでいる家ですから、それなりに荷物はありますが、きちんと整理されていました。母の使っていた部屋も、定期的に掃除していたらしく、ホコリもほとんどなくて…」
鈴木さんと弟は、父親が自室として使っていた、1階玄関わきの四畳半を調べることにした。
「和室には、書類棚と、書き物をするための机と椅子がありました。あとは、文庫本ぐらいでしょうか」
押入れを開けると、上段には突っ張り棒が渡してあり、普段着ていたジャケットやシャツがかかり、下段にはプラスチックの収納ケースが積まれていた。収納ケースを開けると、木製の箱に、通帳や印鑑などが角をそろえて納められていた。
「通帳をしまっていた箱は、私が中学校の美術の授業で作ったものでした。フタに、父が好きだといっていた高級外車のエンブレムを見よう見まねで彫って、色を塗ったものです。〈お前、うまいな!〉って褒めてくれたんですよね、そういえば。あの箱のこと自体、その日まで忘れていましたが、まさか父がずっと使っていたとは…」
しかし、プラケースのさらに奥に、ひと回り小さな段ボールの箱が押し込められているのが見えた。気づいた弟が苦心して引っ張り出すと、そこにはさらにいくつもの箱があり、その中にはそれぞれ、複数のカセットテープ、CD-ROM、そしてUSBメモリが収納され、ひとつひとつに父親の字で日付が書いてあった。おそらく、なにかを録音したものだと思われた。
「なんなんだ、これは…?」