国は「酒場の数」を制限できるか?
では、次の話題に移ろう。店の数を制限し、一部の人しか酒を販売できないようにするのは正当なのだろうか。これについては、正当か不当かは目的によって決まる。
警察は、人が多く集まる場所にはつねに目を光らせなければならないが、なかでもとくに注意が必要なのは酒場である。社会全体に害を及ぼすような犯罪が発生しやすい場所だからだ。
このような場所では、酒を売る権限(少なくとも、その場で飲む人に酒を売る権限)を信頼できる人だけに与えたとしても不当ではない。社会が監視できるように開店時間と閉店時間を厳密に定めることも必要だし、治安を乱したり犯罪の計画を立てたりする客が店にいるなら、店主は毅然とした態度でそういう行為をやめさせなければならない。それができない場合、その店の営業許可は取り消されても仕方がない。
社会が酒場に対して強制できるのはここまでだ。これ以上の制限を強いることは正当ではないと私は思う。たとえば、「人々が酒に誘惑される機会を減らすために酒場の数を制限する」という方法には賛同できない。一部の人のために、社会の全員に不便を強いることが正しいはずがないのだ。
この方法に賛成する人は、こう考えているのと同じだ。「労働者階級は子どものようなものだ。いつかは自由が与えられるかもしれないが、いまはまだ規律で縛って教育を与えてやらないといけない」。
「自由」を認めている国なら、こんな原則を持ち出して労働者階級を縛りつけたりはしない。また、自由の価値をじゅうぶんに理解している人なら、このような方法にはけっして賛同しないだろう。例外があるとすれば、労働者階級に完全な自由を与えるためにあらゆる努力をして、その結果「やはりこの人たちは子どもと同じように支配するしかない」と証明された場合だけだ。だが、この問題に限らず、そのような努力がなされたことがあるとは思えない。
ひとつ確かなのは、イギリスの制度が矛盾に満ちているということだ。家父長制にも似た専制的なシステムがいまだに残っている一方で、全体としては自由を重視している。そのために、道徳教育に必要な規制すら設けられずにいるのだ。
ジョン・スチュアート・ミル
政治哲学者
経済思想家
※本記事は、約165年前に出版された19世紀を代表するイギリスの政治哲学者、経済思想家ジョン・スチュアート・ミルの「自由論」を基にした新訳書籍『すらすら読める新訳 自由論』(著:ジョン・スチュアート・ミル、その他:成田悠輔、翻訳:芝瑞紀、出版社:サンマーク出版)からの抜粋です。
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