10年以上服役するケースも…日本人も外国人も予測できていない、中国での「スパイ罪による身柄拘束」の実態

10年以上服役するケースも…日本人も外国人も予測できていない、中国での「スパイ罪による身柄拘束」の実態

ここ10年で、日本に限らず世界のビジネスマンが「スパイ罪」の容疑で中国当局に身柄を拘束されることが続いています。本記事では、中国法に詳しい村尾龍雄氏の著書『中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、中国でのスパイ罪による身柄拘束の実態をご紹介します。

アメリカが在中国の米国企業に注意喚起。中国本土への渡航の再考を呼びかけ

中国本土で外国人のスパイ容疑による身柄拘束が相次いでいることを受け、米国務省では在中国の米国企業や、米国民に向けて注意を呼びかけています。

 

2019年には、米国人が中国に渡航する際、「国家の安全」を理由に米国人が長期間尋問や拘束を受ける可能性があるとして、中国当局による恣意的な法執行に警戒するよう、米国務省が呼びかけました。

 

新疆ウイグル自治区や中国チベット自治区についても、「保安検査や警官の監視といったより厳しい措置が講じられている」として注意を喚起していました。このときは、直前にカナダ当局がHUAWEIのCFOを逮捕したことに反発した中国当局が、カナダ人2人を拘束した事件があったため、米国人も中国からの報復を受ける可能性があると米国務省が考え、このような注意喚起を行ったのではないかと見られています(2019年1月4日付産経新聞より)。

 

また、2023年6月末には、同年7月1日から中国の改正反間諜法(反スパイ法)が施行されることを受けて、同年に米国国家防諜安全保障センター(NCSC)が中国で企業活動を行う米国企業に注意喚起のための文書を発表しました。

 

日本貿易振興機構(JETRO)の2023年7月3日付のビジネス短信によれば、反スパイ法について「スパイ行為の対象の定義を国家安全保障上の利益に関わるあらゆる文書やデータ等に拡大しているが、明確な定義をしていない」と指摘。「それによって外国の企業や記者、研究者などにとって法的リスクや不確定要素を生み出す潜在性がある」と警鐘を鳴らしました。

 

また、「通常のビジネス活動でも、当局からスパイ行為もしくは対中制裁支援活動とみなされた場合には、罰則の対象となりうる」とも言及しています。

 

NCSCのセンター長は、在中国の米国企業のリスクが高まっていることを受けて、米国企業幹部への説明を進めてきたものの、法の適用範囲の拡大について懸念を表明しています。また、米国務省も香港、マカオも含め中国への渡航は再考すべきとの警告文を発表しました。

 

一方、中国の国家安全部は、2023年12月6日、WeChatの公式アカウントにおいて、

 

「反スパイ法がビジネス環境を悪化させ、対中投資に萎縮効果をもたらしているというのは誤りである。改正によって、反スパイ法はより明確、正確、公開透明になっており、これは中国の法治の進歩を体現したものと理解するのが正しい」

 

「反スパイ法が対象とするのは、国の安全を害する極めて少数のスパイ行為であって、通常の商業活動は対象としておらず、中国における外国企業の投資・経営には何の影響もない。反スパイ法が商業データを国家秘密とみなしており、通常の商業情報の取得がスパイ活動とみなされる可能性があるというのは誤りである」

 

と主張しています。

 

※スパイ取締りの総本山であり、全国各地の国家安全局をたばねる国家安全部は、以前は中国公民の前に現れ、さまざまなアピールをすることを一切しない「潜水艦」のような政府行政機関でした。しかし、近時はWeChatやWeiboに公式アカウントを設けて、さまざまな情報発信をすると同時に、スパイ行為を見つけたら密告を奨励する110番に相当する番号(12339)やインターネットでの密告サービスまで設けて、中国公民に対する反スパイ教育の徹底を図り始めました。テレビ番組でもその趣旨のものが多く放映されているようです。一方でスパイ規制を強化しつつ、他方でスパイ行為に加担しない教育を徹底することで、バランスを図っているとみることができます。

 

 

村尾 龍雄

キャストグローバルグループ

CEO

 

※本連載は、村尾龍雄氏の著書『中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門

中国ビジネスに関わる人のための「反スパイ法・スパイ罪」入門

村尾 龍雄

幻冬舎

スパイ容疑から身を守る! 安心して中国でビジネスを行うために―― 拘束・逮捕のリスクを回避するための知識を網羅! 日本にとって最大の貿易相手国である中国には、仕事などで滞在している日本人が10万人以上いますが…

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