「売買代金の返還」が認められるポイントとは?
Q建築紛争を含めた不動産に関する紛争において、どのような場合に売買代金の返還が認められていますか。
A返還請求が認められるケースとしては錯誤無効と解除の場合が多い。よって「契約の目的が達成できないか否か」「契約における重要な要素であるか」が判断基準として参考になる。
【肯定例】
契約の解除、錯誤無効のほかに説明義務違反による返還を命じた〈②大阪地判H21・11・26〉は参考になる。
①札幌地判平成22年4月22日判時2083号96頁
マンションの売買契約において、買主が耐震基準を満たしていなかったとして錯誤無効等を求めた事案につき、売主である不動産業者が補修で対応可能と主張したのに対し、小規模の修繕で補修が可能であるとしても耐震基準を満たしていないとわかっていれば購入しなかったとして錯誤無効を認め売買代金全額の返還を命じた。
▶マンション⇒売買代金−請求額(最高4740万円)・認容額(最高4740万円)−原告14名
②大阪地判平成21年11月26日判タ1348号166頁
マンションの居室内で他殺が疑われる死亡事件のあったことを買主に告げなかったことが売主の契約上の告知義務違反にあたるとして、売買代金2800万円の返還を命じた。
▶マンション⇒売買代金−請求額(2800万円)・認容額(2800万円)
③東京地判平成20年9月24日判例秘書L06332412
マンション建設用地として購入した土地に多量の廃棄物埋設や石綿等による土壌汚染が発覚したため、買主の売主に対する瑕疵担保責任による解除を認め、売買代金4億6000万円の返還請求を認めた。
▶土地⇒売買代金−請求額(4億6000万円)・認容額(4億6000万円)
④東京地判平成20年4月8日判例秘書L06331190
リゾートホテル一室を購入したものの、売主には売買契約と一体となっている業務委託契約の債務不履行があるとして、買主の売買契約の解除及び売買代金の一部200万円の返還請求が認められた。
▶リゾートホテル一室⇒売買代金の一部−請求額(200万円)・認容額(200万円)
物件の誤った内容が新聞広告に掲載されたケース
⑤神戸地判平成9年9月8日判時1652号114頁
傾斜地に建築した鉄筋コンクリート造建物に発生した浸水現象につき、契約の目的を達成できない「隠れたる瑕疵」に該当するとして買主の契約解除の主張を認め、買主の売主に対する代金額(3億円)の返還請求を認めた。
▶鉄筋コンクリート造建物⇒売買代金−請求額(3億円)・認容額(3億円)
⑥最判平成8年11月12日判時1585号21頁
リゾートマンションの区分所有権の売買にスポーツクラブへの加入が義務づけられている事案において、スポーツクラブの契約解除が認められた場合にはマンションの売買契約も解除できると判断した第一審の判決を肯定し、解除できないと判断した第二審の判決を取り消して売買代金の一部2390万円の支払を売主に命じた。
▶リゾートマンション⇒売買代金−請求額(2390万円)・認容額(2390万円)
⑦東京高判平成6年7月18日判時1518号19頁
売買の対象となった土地、一戸建て建物に関する建蔽率・容積率について誤った新聞広告がなされ、かつ契約締結時においても仲介業者から買主に対して誤った説明がなされた事案につき、買主の錯誤無効の主張が認められ、売主の買主に対する売買代金(8315万7082円)の(不当利得)返還義務が認められた。
▶一戸建て⇒売買代金−請求額(8315万7082円)・認容額(8315万7082円)
⑧東京地判平成5年3月29日判時1466号10頁
売主の従業員の説明内容よりも建設予定の隣接建物が高層な建物であったため、購入したマンションへの日照が阻害されることが判明した事案につき、日当たりは買主にとって重大な関心事であり、売主の説明に誤りがあったこと等を認定して、買主のマンション売買契約の錯誤無効の主張を認め、売買代金5700万円の返還を売主に命じた。
▶マンション⇒売買代金−請求額(5700万円)・認容額(5700万円)
⑨東京高判平成元年8月10日金商838号14頁
マンションの一区画を飲食店(そば屋)経営目的で購入したが、飲食店には適しない構造であることを根拠に買主が無催告解除した事案につき、第一審は上記契約目的の存在を否定したが、第二審において上記契約目的の存在を認め、必要な設備を設置すると建築基準法に違反することから約定どおりの無催告解除が認められるとして売買代金の返還請求権1000万円の支払を売主に対して認めた。
▶マンション⇒売買代金−請求額(1000万円)・認容額(1000万円)
【否定例】
契約の解除、錯誤無効の主張が認められない場合には売買代金の返還は認められない。
①東京地判平成20年4月7日判例秘書L06331239
土地の買主の売主に対する、当該土地の間口が狭く車両の進入が困難であったため隣地所有者との間で隣地を使用できる旨の紳士協定の締結が前提となっていたのに協定が締結されていなかったことを理由とする錯誤無効、同紳士協定があるものと誤信させて購入させたこと等を理由とする不法行為または債務不履行に基づく損害賠償請求について、いずれも理由がないとして否定した。
▶土地⇒売買代金−請求額(4350万円)・認容額(0円)
②東京地判平成6年3月31日判時1525号74頁
将来代金を改定することができる旨の特約は売主と買主の間で有効であるとしても、契約締結後9年後に契約当初の代金を買主が売主に提供しても「弁済の提供」には該当せず、買主が売主の不履行を根拠として契約を解除することは信義則上できないとして、代金の返還請求を否定した。
▶土地⇒売買代金−請求額(1億円)・認容額(0円)
③最判平成3年4月2日判時1386号91頁
借地権付き建物売買において、敷地部分である擁壁に建物倒壊の危険性のある場合でも、土地所有者である賃貸人が借地人に対して修繕義務を負担すべき対象である場合には、このような状況は建物売買の目的物の「隠れたる瑕疵」ではなく、敷地賃貸人の修繕義務の問題であるとして解除に基づく代金請求及び賠償請求を否定した。
▶借地権付建物⇒売買代金−請求額(650万円)・認容額(0円)