今回は、不動産の「価値の下落」に関する裁判例の傾向について見ていきます。※本連載では、犬塚浩氏監修・共著『Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―』(創耕舎)より一部を抜粋し、建築瑕疵(欠陥)によって起きた裁判のうち、「契約費用関係」の判例を中心にご紹介します。

「減価額」等の項目で損害が認められている具体例

Q家屋等不動産の価値が否定された場合の損害についてはどのように考えればよいのですか。

 

A不法行為、債務不履行責任または瑕疵担保責任が認められる場合に「減価額」等の項目で損害が認められている。不動産価値の下落の程度が低い場合、補修等によって不動産価値の下落が認められない場合、転売目的で購入していない場合など、不動産の価値に関して損害を被ったと認められない場合には損害が否定されている。

 

【肯定例】

「減価額」(〈②東京地判H25・7・3〉、〈⑥東京地判H22・3・8〉)、「減価率」(〈⑨東京地判H9・7・7〉)、「価値下落」(〈⑩横浜地判H8・2・16〉)、「減価割合」(〈⑪東京地判H7・8・29〉)、「相当な価額との差額分」(〈⑬東京地判H6・7・25〉)、「売却損」(〈⑭大阪地判H5・12・9〉)、「資産価値の下落分」(〈⑮大阪地判H4・12・21〉)等の項目で損害が認められている。

 

①東京地判平成25年8月21日判例秘書L06830648

土地の売買契約後、買主が売主に対し近隣に暴力団事務所が存在していたことを理由に主位的請求として債務不履行解除等による売買代金の返還を、予備的請求として説明義務違反による不法行為に基づく損害賠償請求として暴力団事務所を前提とした価格と実際の購入価格との差額等の支払を求めた事案につき、債務不履行解除等は棄却したが、説明義務違反は認め購入代金1割(2000万円)の賠償請求を認めた。

▶土地⇒購入差額−請求額(7014万2000円)・認容額(2000万円)

 

②東京地判平成25年7月3日判時2213号59頁

マンション一棟の売買に関し、マンションの一室で自殺があったことについて、売主及び売主の依頼を受けた宅地建物取引業者は自殺であることを知らなかったのであるから買主に対する説明義務違反はなく、居住者の死因を確認するまでの調査義務があったとは認められないとしながら、自殺の事実はマンションの瑕疵にあたるとして、売主に対し不動産の減価額等として600万円の損害の支払を命じた。

▶マンション⇒減価額等−請求額(1億円)・認容額(600万円)

 

③東京地判平成25年3月29日判例秘書L06830291

不動産業者が個人である売主から分譲住宅用地目的で土地を購入したところ、売主が当該土地上の自動車内で夫が自殺した事実を告知していなかったことが説明義務違反に該当する、または瑕疵担保責任を負うと主張した事案につき、宅建業者に仲介を依頼した売主の説明義務違反は否定したものの、瑕疵担保責任は負うとして、土地価格の20%の下落分の請求を認めた。

▶土地⇒減価額−請求額(500万円、土地価格4340万円の20%の下落868万円の内金として請求)・認容額(500万円)

 

④東京地判平成24年12月13日判例秘書L06730749

マンション目的で土地を購入した買主が売主に対し当該土地には隣地建物の基礎の越境等の隠れた瑕疵があったとして、越境によりマンション建築のために使用できない土地部分の代金相当額の損害賠償請求をした事案につき、売主に対し500万円の支払を命じた。

▶土地⇒減価額−請求額(4606万1312円)・認容額(500万円)

 

⑤福岡高判平成23年3月8日判タ1365号119頁

マンション一室が相当長期間にわたり性風俗特殊営業に使用されていたことが瑕疵にあたるとして売主に瑕疵担保責任を、この事実を説明しなかったことが説明義務違反にあたるとして仲介者に債務不履行責任を認め、民事訴訟法248条により買主の損害を100万円と認めた。

▶マンション一室⇒減価額−請求額(600万円)・認容額(100万円)

 

⑥東京地判平成22年3月8日判例秘書L06530224

従前3棟の建物があった土地(更地)を購入し、5棟の建物を新築して分譲しようとしたところ、従前の1棟の建物において火災による死亡者が発生していたことが瑕疵にあたるとして、売主に減価額200万円の支払を命じた。

▶土地⇒減価額−請求額(1876万円)・認容額(200万円)

 

⑦鹿児島地判平成19年4月25日判時1972号126頁

九州新幹線(鹿児島ルート)の軌道、架線及び高架橋の設置または管理上の瑕疵により日照阻害、騒音被害、地価の低下による被害を被ったとして、住民が国家賠償法2条1項に基づいて求めた損害賠償請求が認容された事例について、土地の減損額については、原告らが提出した鑑定書における減価率には疑問があるとし、本件の日照阻害及び騒音被害の状況に照らすと、本件高架橋に隣・近接するという要因による減価率は5%にとどまるものと見るのが相当であるとしてその限りにおいて減損額を損害として肯定した。

▶土地⇒土地の減損額−請求額(4800万円)・認容額(1220万円)原告7名

 

⑧福岡高判平成18年3月9日判タ1223号205頁

マンションの共有部分の瑕疵が、補修後も区分所有権の交換価値を低下されていることを理由として、売主の瑕疵担保責任が認められ、購入価格の5%を価値下落による損害として認めた。

▶マンション⇒マンション価値下落分−請求額(3175万4844円)・認容額(529万2474円)−購入価格の5%

交差点の反対側に暴力団事務所が存在したケース

東京地判平成9年7月7日判時1605号71頁

マンションの売買契約に関して、引渡後に同一マンション内に暴力団員が専有部分を所有していることが発覚しても、錯誤無効、詐欺取消の主張は認められないが、売買契約における心理的な意味での「隠れたる瑕疵」に該当し、本来の代金の差額分を瑕疵担保責任に基づく賠償義務として売主に350万円の支払義務を認めた。

▶マンション⇒売却損(眺望侵害)−請求額(900万円)・認容額(350万円)

 

⑩横浜地判平成8年2月16日判時1608号135頁

売却したリゾートマンション(「当該マンション」という)の売主が当該マンションからの眺望を侵害するマンション(「東側マンション」という)を自ら建築した事案につき、当該マンションを建築した売主には東側マンションのような建物を建築しないという、信義則上の義務を負うとして当該マンションの買主に対する共同不法行為責任を認め、価格の下落として694万8000円の賠償義務を認めた。

▶リゾートマンション⇒売却損(眺望侵害)−請求額(799万円)・認容額(694万8000円)

 

⑪東京地判平成7年8月29日判時1560号107頁

交差点の反対側に暴力団事務所が存在することは、土地売買契約における「隠れたる瑕疵」に該当し、減価割合は2割を下らないとして売買代金の2割相当額1820万円が瑕疵担保責任に基づく損害であるとして売主の賠償義務を認めた。

▶土地⇒売却損−請求額(6910万2945円)・認容額(1820万円)

 

⑫東京地判平成6年9月21日判時1538号198頁

不動産業者である売主が買主に対して誤った情報を提供して不当に高額でマンションを売却した事案につき、不動産売買の仲介ではなく売主の立場に立つとしても当該不動産を買い受けるか否かにつき的確な判断ができる情報を提供する義務があるところ、売主はこれを怠ったとして、転売価格との差額分(1500万円)の賠償請求を債務不履行責任として認めた。

▶マンション⇒売却損−請求額(1500万円)・認容額(1500万円)

 

⑬東京地判平成6年7月25日判時1533号64頁

土地の売買契約につき、建築基準法上の接道義務を満たしていなかったことについて、本来の価格との差額分として請求額1億6000万円のうち9000万円の請求を認めた。

▶土地⇒相当な価格との差額分−請求額(1億6000万円)・認容額(9000万円)−不当な価格と売価との差80%

 

⑭大阪地判平成5年12月9日判時1507号151頁

眺望を売り物にしてマンションを分譲した売主が、この眺望を侵害するマンションが隣接地に建設されることを知りつつ売却した場合は買主に対する不法行為であるとして、眺望侵害された買主からの賠償請求を一部認め、財産的損害(売却損)として最高250万円と弁護士費用の一部を認めた。

▶マンション⇒売却損−請求額(売買代金の2割)・認容額(6万円~250万円)−原告21名

 

⑮大阪地判平成4年12月21日判時1453号146頁

別荘地(木曽駒高原)に高層リゾートマンション10階建てを建築されたことによって、自己所有別荘からの眺望が侵害されたことにつき、眺望の利益は法的保護に値するとして資産価値の下落分として請求額1050万円のうち237万4800円の請求を認めた。

▶高層リゾートマンション⇒資産価値の下落分−請求額(1050万円)・認容額(237万4800円)

価値の下落分が認められなかった例とは?

【否定例】

既に修理がされているとして損害を認めなかった〈①東京地判H25・3・11〉、防火戸が作動したことによっても「資産価値の下落の程度にまで変動をきたすものではない」〈③東京高判H18・8・30〉、「補修後の建物の価値の下落については根拠はない」〈④東京地判H18・7・24〉、〈⑮福岡地判H3・12・26〉、「補修前後において価値の減価は認められない」〈⑤東京地判H15・12・15〉、立証不十分として否定される〈⑧大阪地判H10・4・16〉、〈⑫東京高判H6・2・24〉、〈⑬東京地判H6・1・24等〉がある。また、転売目的で購入したものでないことを根拠にした〈⑥東京高判H12・10・26〉、眺望侵害関して受忍限度論を基準として売却損を否定した〈⑦大阪高判H10・11・6〉、プライバシー侵害に関して慰謝料は認めたもののマンションの価値の下落分は否定した〈⑧大阪地判H10・4・16〉は参考になる。

 

①東京地判平成25年3月11日判例秘書L06830310

上階のバルコニーのアルミ手摺の縦格子がルーフバルコニーに落下ないし落下のおそれがあるとして買主が売主に対して瑕疵担保責任を追及し、瑕疵によって建物の適正価格は1億2300万円から1割減額した1億1070万円になったとして、この減価分を損害として請求した事案につき、瑕疵担保責任は認めたものの、瑕疵が売買の約7か月後に応急措置により修補されたと認められることに照らせば、瑕疵により売買代金額の1割に相当する損害が発生したものと認めることはできないというべきであるとして請求を否定した。

▶マンション⇒瑕疵による価値の下落分−請求額(1230万円)・認容額(0円)

 

②東京地判平成24年8月7日判時2168号86頁

国定公園内の土地の開発事業につき、環境生活部自然保護課の担当者から当該土地の自然公園法上の規制に関する誤った違法な行政指導を受けたため、得べかりし利益を失ったとして、国家賠償請求訴訟を提起した事案につき、得べかりし利益はないとして否定した。

▶土地⇒得べかりし利益−請求額(1億6584万円)・認容額(0円)

 

東京高判平成18年8月30日金商1251号13頁

マンションの売買において防火戸の電源スイッチが切られて作動しない状態で引き渡されたことにつき売買の目的物に隠れた瑕疵があったとされた事例につき、当該瑕疵によりマンション価値が下落したとの主張について、本件火災のような規模の火災が発生した場合は、それが防火区画外に延焼したか否かにかかわらず『瑕疵物件』としてその価値が大きく下落するものといえるから、本件防火戸が作動したことによって上記のような原状回復費用の変化があるとしても、資産価値の下落の程度にまで変動を来すものということはできないとして、請求を否定した。

▶マンション⇒瑕疵による価値の下落分−請求額(9250万円)・認容額(0円)

 

④東京地判平成18年7月24日判例秘書L06132898

購入建物が建築確認申請図面と異なり、十分な強度がないとして、瑕疵担保責任ないし不法行為に基づく損害賠償請求を認めたものの、補修後の建物の価値の下落については根拠がないとして賠償請求を否定した。

▶木造一戸建て⇒補修後の建物の価値下落分−請求額(1000万円)・認容額(0円)

 

⑤東京地判平成15年12月15日判例秘書L05835187

マンションの購入者が、販売業者に対し、主位的に売買契約の解除に伴う原状回復として、売買代金額相当額等の返還を、予備的に売主の債務不履行責任または瑕疵担保責任に基づき、マンションの価値の下落分を含む損害賠償等を請求した事案につき、瑕疵はその後の補修工事によって治癒されているのであって、補修の前後において価値の減価は認められないとして損害賠償を否定した。

▶鉄筋コンクリートマンション⇒マンション価値下落分−請求額(2448万円)・認容額(0円)

 

⑥東京高判平成12年10月26日判時1739号53頁

がけ地を含む土地マンションの売買につき、不動産仲介業者が関係法令に基づく規制があること、利用が大幅に制限され、多額の擁壁工事費用が生じることも説明しなかった場合には、仲介業者には仲介契約に基づく債務不履行責任が発生すると認めたが、転売差損や売却代金運用益については、買主は転売目的で購入したのではないことを根拠に否定した。

▶土地⇒転売差損−請求額(5402万円)・認容額(0円)

 

⑦大阪高判平成10年11月6日判時1723号57頁

眺望侵害等を根拠とする建築主に対する賠償請求を認めた地裁(第一審)の判断について、受忍限度を超える損害があるとの立証がないとして否定し、第一審原告の請求をすべて否定した。

▶木造一戸建て⇒売却損−請求額(700万円)・認容額(0円)

 

⑧大阪地判平成10年4月16日判時1718号76頁

マンションの建築主に対して眺望侵害、プライバシー侵害等を根拠とする賠償請求のうち慰謝料請求の一部(120万円)を認めたが、価格の下落分の請求を否定した。

▶木造一戸建て⇒売却損−請求額(700万円)・認容額(0円)

 

⑨東京地判平成8年2月5日判タ907号188頁

マンション分譲後売れ残ったマンションを分譲業者が値引きして販売した事案につき、値引き前に購入した買主から分譲業者に対する債務不履行責任または不法行為責任に基づく損害賠償請求が否定された。

▶マンション⇒売却損−請求額(400万円)・認容額(0円)

 

⑩長野地上田支判平成7年7月6日判時1569号98頁

眺望を宣伝して分譲された別荘地において、後から建物を建築して眺望侵害をしたことを根拠とする隣地別荘所有者への不法行為に基づく賠償請求が否定された。

別荘売却損請求額(550万円)・認容額(0円)

 

⑪東京地判平成6年5月9日判時1527号116頁

鉄骨鉄筋コンクリートマンションの上階所有者が木質フローリング床に変更したことによって生じた騒音について下階の所有者の不法行為に基づく損害賠償請求としての慰謝料請求とマンションの価値の減価分の賠償請求を否定した。

▶鉄骨鉄筋コンクリート造マンション⇒マンションの価値下落分−請求額(345万円)・認容額(0円)

 

⑫東京高判平成6年2月24日判タ859号203頁

新築マンションの売買につき、分譲業者兼販売業者と買主との間に「瑕疵のない建物を引き渡す合意」が存在したことを認定し、本件建物に湿気や異臭が強いという瑕疵があることから売主たる分譲業者兼販売業者は買主に対して債務不履行責任を負うとするも、売却差損1800万円については根拠不十分として否定した。

▶マンション⇒売却差損−請求額(1800万円)・認容額(0円)

 

⑬東京地判平成6年1月24日判時1517号66頁

建築確認通知書が発行された後に売主がリゾートマンションを建築して土地付で買主に譲渡する旨の契約を締結する等の協定を結んだにもかかわらず買主が契約締結を拒否した場合には、信義則違反として買主は売主に対して建物建築のために売主が設計計画費として支払った費用(2720万円)の賠償義務を負うが、土地売却損については根拠がないとして否定した。ただし、設計計画費については売主にも建築確認の手続が遅れたことの過失があることを根拠に2割の過失相殺を認めた。

▶リゾートマンション⇒土地売却損−請求額(9945万円)・認容額(0円)

 

東京地判平成5年4月26日判タ827号191頁

売主が鉄筋コンクリート造マンションの一部を売却した後、売主が未分譲分を値下げして分譲したこと等が影響し、以前に購入した者のマンションの資産価値が下落したことを根拠とする買主から売主たる分譲業者に対する損害賠償請求を否定した。

▶鉄筋コンクリート造マンション⇒売却損−請求額(3100万円)・認容額(0円)

 

⑮福岡地判平成3年12月26日判時1411号101頁

新築鉄筋造マンションの買主が、遮音性が不十分であることを根拠に、売主に対して①債務不履行に基づく財産的損害、②不法行為に基づく慰謝料請求をした事案につき、①については債務不履行責任を認め、②については慰謝料として最高25万円の請求を認めたが、①につき価格の下落額を根拠付ける証拠はないものとして価格の下落分の請求を否定した。

▶鉄筋造マンション⇒価格の下落分−請求額(100万円)・認容額(0円)−原告3名

 

⑯東京地判平成3年8月27日判時1428号100頁

住宅専用地域内の違反一戸建て建築物の日照侵害の程度は受忍限度を超えているとして、建物交換価値の低下分1920万円及び慰謝料1500万円の請求のうち、慰謝料についてのみ150万円賠償義務を違反建物所有者に認め、是正措置を行使しなかった区の賠償義務は否定した。

▶一戸建て⇒建物交換価値の低下分−請求額(1920万円)・認容額(0円)

 

⑰名古屋地判平成3年1月23日金商877号32頁

不動産仲介者が、更地として転売する目的で土地付建物を購入した事案につき、「建物がその隣の建物と壁を共用する状態であること」は売買契約における隠れたる瑕疵には該当しないとして売主の瑕疵担保責任を否定し、買主から売主に対する転売利益金4億4208万円の請求を否定した。

▶土地付建物⇒売却損−請求額(4億4208万円)・認容額(0円)

 

東京地判平成2年6月26日判タ743号190頁

鉄筋コンクリート造リゾートマンションの区分所有者が、購入後にマンションの眺望侵害を根拠に売主に対して分譲契約の錯誤・詐欺を根拠とする無効主張及び不法行為に基づく賠償請求をしたがすべて否定された。

▶鉄筋コンクリート造リゾートマンション⇒売却損−請求額(最高1800万円)・認容額(0円)−原告19名

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務  ―損害項目と賠償額の分析―

Q&A建築瑕疵損害賠償の実務 ―損害項目と賠償額の分析―

犬塚 浩 永 滋康 宮田 義晃 西浦 善彦 石橋 京士 堀岡 咲子

創耕舎

建築瑕疵の裁判例から重要なものを抽出し、その概要・損害賠償の可否・請求費目・具体的金額等を事案ごとに整理・分析し、住宅紛争処理の迅速かつ適切な解決・予防のために有益な書籍。

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