IT人材の社会的地位の低さ
日本のIT業界が世界から後れをとっている要因はいくつか考えられますが、特に私が大きな要因だと考えているのはITエンジニアの社会的地位の低さです。
欧米諸国ではエンジニアは尊敬される職業の一つです。社会を変革する原動力として認知され、高い社会的評価を受けており、高額な報酬を手にしています。アメリカ全土でのIT業界で働く人たちの給与は平均9万ドルほどで、シリコンバレーのIT企業では、エンジニアの年収が15万ドルを超えることは珍しくありません。
日本ではエンジニアはものづくりの担い手としては重宝されるものの、社会的地位は必ずしも高くなく、評価の低さは賃金水準にも色濃く反映されています。転職サイト大手のdodaによると、日本のITエンジニアの平均年収は452万円と、アメリカと比較すると大きな開きがあります。
世界に目を向けてみても、ヒューマンリソシアがおこなった「2023年版データで見る世界のITエンジニアレポート」ではITエンジニアの収入が最も高かったのはスイスで2位がアメリカ、3位がイスラエルです。日本は中国を下回る26位とスイスの3分の1程度の水準でした。
そもそも国内にいるITエンジニアたちは自分のもっているスキルが社内で適切に評価されず、賃金に反映されていないと感じています。
IPA(情報処理推進機構)の「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2023年度)」によると、社内にIT人材を評価、把握する基準が「ない」と回答した国内企業の割合は8割を超えました。
目安になる基準すらないのですから、エンジニアのスキルは適切に評価されず、キャリア形成も個人任せになっています。
組織のなかで軽視され続けるIT部門
エンジニアを軽視する日本の職場では、企業内におけるIT部門の立ち位置が低いのも特徴です。
アメリカではCIO(最高情報責任者)がCxOの一角を占め、経営の意思決定に深く関与しています。一方、日本企業の多くでは、経営層がITの重要性を十分に認識しておらず、情報IT部門長がCxOとして経営会議に参画するケースはまれです。
総務省が実施した国際アンケート(2023年)でも「CIOやCDO(最高デジタル責任者)などのデジタル化の主導者」が在籍していると答えた企業の割合は、海外(米独中)では7、8割であったのに対し、日本は3割にとどまりました。「DX白書2023」の調査でも経営者・IT部門・業務部門が協調できているかどうかについて「できている」と答えた割合が、アメリカは8割だったのに対し、日本は4割弱でした。
IT部門が経営と切り離された存在として扱われ、IT戦略が経営戦略と乖離することによって、企業全体の目標達成に向けた戦略的なアプローチが難しくなります。その結果、IT投資が先送りされたり、デジタル変革の取り組みが手付かずのままになったりしています。
ITが経営戦略のなかで重要性を増す現代において、IT人材とIT部門の軽視が続けば、日本企業は世界からますます後れをとっていくことになります。