他業界から見たIT業界の歪さ
いくつもの課題を抱えている日本のIT業界ですが、最大の問題は業界特有の歪んだ構造、すなわち複雑に入り組んだ多重下請け構造にあると私は思っています。
IT業界では大手のSIer(システムインテグレーター)が市場を牛耳る一方で、中小企業が下請けとして連なっています。この構造はほかの業界から見ると明らかに歪であるものの、IT業界にどっぷり浸かった企業や、そこで働くエンジニアたちにとってはもはやあまりにも当たり前すぎてしまい、疑問をもたない場合がほとんどです。
しかしこの業界特有の歪んだビジネス構造がもたらすさまざまな弊害が、日本のIT産業の国際競争力を低下させる大きな要因となっているのです。
大手SIerはエンドユーザーのニーズに合わせ、きめ細かいシステム開発を手掛けてきました。しかしその一方で、開発プロセスの属人化や、技術のブラックボックス化などの副作用も生んできました。柔軟性を欠いた開発は、変化の激しいビジネス環境への対応を難しくしています。独自色の強い、ガラパゴス化したシステムは、グローバル市場での競争力を弱めています。
大手企業による寡占状態も無視できない問題です。彼らが市場を支配し、価格決定力を振るうため、新規の中小企業が参入を試みるハードルが非常に高いのです。大手の圧力に抗し難い状況では、新たなアイデアやイノベーティブな試みも芽を摘まれてしまいます。
多重下請け構造により、下請け企業が苦境に陥るだけでなく、最終的にはエンジニア個人が過酷な労働環境におかれてしまいます。結果として、エンジニアの技術力の伸び悩みやモチベーションの低下を招いています。