多くのIT子会社が本来の目的を見失い、下請け的な存在に終始している…日本のIT業界にはびこる「歪なビジネス構造」

多くのIT子会社が本来の目的を見失い、下請け的な存在に終始している…日本のIT業界にはびこる「歪なビジネス構造」
(画像はイメージです/PIXTA)

国内のIT業界では、そのビジネス構造が国際競争力を低下させているといいます。田中宏明氏の著書『SEの悲鳴 ITエンジニアを食い物にする多重下請け構造の闇』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、IT業界で問題となっている大手企業による寡占状態とIT子会社の実態について、詳しくみていきましょう。

他業界から見たIT業界の歪さ

いくつもの課題を抱えている日本のIT業界ですが、最大の問題は業界特有の歪んだ構造、すなわち複雑に入り組んだ多重下請け構造にあると私は思っています。

 

IT業界では大手のSIer(システムインテグレーター)が市場を牛耳る一方で、中小企業が下請けとして連なっています。この構造はほかの業界から見ると明らかに歪であるものの、IT業界にどっぷり浸かった企業や、そこで働くエンジニアたちにとってはもはやあまりにも当たり前すぎてしまい、疑問をもたない場合がほとんどです。

 

しかしこの業界特有の歪んだビジネス構造がもたらすさまざまな弊害が、日本のIT産業の国際競争力を低下させる大きな要因となっているのです。

 

大手SIerはエンドユーザーのニーズに合わせ、きめ細かいシステム開発を手掛けてきました。しかしその一方で、開発プロセスの属人化や、技術のブラックボックス化などの副作用も生んできました。柔軟性を欠いた開発は、変化の激しいビジネス環境への対応を難しくしています。独自色の強い、ガラパゴス化したシステムは、グローバル市場での競争力を弱めています。

 

大手企業による寡占状態も無視できない問題です。彼らが市場を支配し、価格決定力を振るうため、新規の中小企業が参入を試みるハードルが非常に高いのです。大手の圧力に抗し難い状況では、新たなアイデアやイノベーティブな試みも芽を摘まれてしまいます。

 

多重下請け構造により、下請け企業が苦境に陥るだけでなく、最終的にはエンジニア個人が過酷な労働環境におかれてしまいます。結果として、エンジニアの技術力の伸び悩みやモチベーションの低下を招いています。

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※本連載は、田中宏明氏の著書『SEの悲鳴 ITエンジニアを食い物にする多重下請け構造の闇』(幻冬舎メディアコンサルティング)より抜粋したものです。

SEの悲鳴 ITエンジニアを食い物にする多重下請け構造の闇

SEの悲鳴 ITエンジニアを食い物にする多重下請け構造の闇

田中 宏明

幻冬舎メディアコンサルティング

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