思い描いていた仕事とのギャップに苦しむ若手SEたち
多くの若者がIT業界を目指す理由。それは、この業界にかける夢があるからでしょう。最先端の技術に携われる、自分の手掛けたシステムが世の中を変えていく。そんなエンジニアとしてのやりがいを追い求めて、IT企業への就職を決意するのだと思います。
ところが、いざSES企業に入ってみると、その期待は見事に裏切られることが少なくありません。
言われたとおりに単調な作業を繰り返すだけ、古いシステムのメンテナンスばかりで新しい技術に携わる機会はない、スキルアップのチャンスはほぼない、突発的な深夜の障害対応……ここまで見てきたように、SES企業のエンジニアを取り巻く環境は決して良いものとはいえません。
もちろん、最先端の開発プロジェクトに携われるエンジニアもいます。大手SIerのエンジニアとして大企業の基幹システムに関われば、やりがいを感じることもできるはずです。ただ、それはほんのひと握りのエリートに過ぎません。
大半のエンジニアは、下請けの下請けとして、上位企業に頭を下げながら泥臭い仕事をこなすのが日常なのです。下請けの立場では、やりがいのある仕事に携わる機会は限られています。それでは、エンジニアのモチベーションが上がらないのも当然だといえます。
SES企業のエンジニアにとって、仕事へのやりがいを感じることは容易ではありません。最大の理由は、多重下請け構造ゆえに、自分の担当業務と最終成果物との関連性が見えづらいことです。
自分の仕事がエンドユーザーにどのように役立っているのかを実感しづらいのです。できあがるシステムが、最終的にエンドユーザーにどのように喜ばれているのかも知りません。システム開発全体像を把握できないために仕事へのやりがいを感じられず、だんだんとモチベーションが低下していきます。
エンドユーザーと直接やり取りすることもなく、ただ言われたことをこなすだけの日々。それはまるで広大な森のなかで、ひたすら小さな木を切り倒しているようなものです。SES企業のエンジニアたちは、自分がどんな意味のある仕事をしているのか、実感をもてずにいます。
しかし本来、システム開発に携わるエンジニアには、社会への貢献意識が不可欠のはずです。「これを作ったことで、世の中がどう良くなるのか」「依頼主の企業にどんなメリットをもたらすのか」。そうしたビジョンをもてなければ、仕事への情熱も湧いてこないでしょう。
その点、建設業界などでは最終的な完成形を目にする機会があります。たとえ重労働に従事する立場だったとしても、自分の手掛けた道路を実際に走ってみれば、その出来栄えを実感できるはずです。「この道は自分が造ったんだ」と胸を張って言えるのです。
しかしSES企業の開発現場は、そうはいきません。エンドユーザーの社内用アプリケーションなどは、表向きのユーザーインターフェースすら目にすることはありません。最終的にどう使われるのかも分からず、ただ裏方として黙々と作業するしかないのです。
このように多重下請け構造のなかで、下層に位置するほど、達成感を得る機会は乏しくなります。自分が技術の一端を担っているという自負は、なかなかもてないのが実情なのです。