7月〜9月前半の日経平均株価の振り返り、「20円の円高進展」がもたらす株安【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2024年9月14日)

7月〜9月前半の日経平均株価の振り返り、「20円の円高進展」がもたらす株安【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
(※画像はイメージです/PIXTA)

2024年の8月の日経平均株価の大暴落をきっかけに株価や為替の乱高下が続く昨今。本稿では、ドル円の関係を軸に、7月から9月前半の経済状況をエコノミスト・宅森昭吉氏が振り返り、日経平均株価の動向の背景について解説します。

ドル円レートとNYダウで8割が説明できる…7月〜9月前半の日経平均株価動向

最近は、株価や為替の大幅な変動を伝えるニュースが流れることが多く、人々の景況感に影響を与える機会が、多くなっているように思われます。2024年7月1日~9月13日の日経平均株価(終値)のドル円レートとNYダウ(前営業日終値)による回帰式をつくると、以下のようになりました。
 
日経平均株価(終値)=▲71,744.1+334.3977×ドル円レート
           (▲7.05) (14.6)
 
          +1.481324×NYダウ(前営業日終値)
           (7.43)
 
     自由度調整済み R2:0.803  観測数:53
(   )内はt値。数字の大きさでパラメータが有意であること確認。

 
自由度調整済み決定係数が0.803なので、7月から9月前半の日経平均株価は、ドル円レートとNYダウ(前営業日終値)で8割が説明できることになります。1円、円高が進むと、約334円、日経平均株価が下落する関係にありました。

 

NYダウの約1.5倍など大きな変動が、日経平均株価史上最大の下落を招いたか

また、NYダウが1ドル低下すると、日経平均株価は約1.5円低下と大幅に変動することがわかります。この2ヵ月間に、米国の先行きの景気後退観測でNYダウが大きく下落する局面がありましたが、下落幅が史上ワースト10に入ったことはありませんでした。

 

一方、日経平均株価は3回、史上ワースト5に入る下落幅を記録したことと対照的です。

 

[図表1]日経平均の下落幅ランキング
[図表1]日経平均の下落幅ランキング

7月末、1ドル=150円割れの円高を招いた、日銀の利上げと植田日銀総裁発言

日米金融当局の金融政策変更に関する市場の反応で円高・ドル安が進みました。7月初めの1ドル=160円程度の円安でしたが、7月は円高方向に振れ、30日までは1ドル=150円台で推移しました。

 

FRBは、7月31日にFOMCの結果として、フェデラルファンド金利の誘導目標を5.25%~5.50%で据え置くことを発表しました。一方、日銀は7月31日の金融政策決定会合で0〜0.1%としていた政策金利(無担保コール翌日物レート)を0.25%に引き上げることを決めました。

 

7月31日には、さらに植田日銀総裁が記者会見で「経済・物価情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」などと発言をしたことが円高に拍車をかけました。特に、壁として「0.5%は意識していない」との発言は、断続的に利上げする印象を与えたとされたようです。

 

こうして、1ドル=150円を突破し。140円台になりました。その後、今後の日銀の利上げ時期・回数の見通し、FRBの利下げ時期・幅・回数の見通し、さまざまな要人発言、重要経済指標などを巡ってさまざまな思惑が飛び交いました。結果として9月13日には141円を割り込み140円台になりました。

 

最近2ヵ月半の期間で、約20円、円高が進行したことが、日経平均株価の下落要因になったようです。一方、NYダウは最近2ヵ月半の期間で変動しながらも約2,000ドル上昇していて、こちらは長い目でみると、日経平均株価の上昇要因になったようです。

7月の米国失業率の悪化から「景気後退」を囃した市場関係者

8月2日に発表された7月の米国雇用統計では、非農業部門・就業者数が前月差11万4,000人増加と市場予想平均といわれていた17万5,000人増加を大幅に下回りました。

 

一方、失業率は4.3%と4.1%と言われていた市場予想平均を大幅に上回りました。市場関係者は失業率の悪化からサーム・ルールの景気後退シグナルが点灯し、米国の雇用市場が急激に冷え込みつつあることを印象づける数字と騒ぎました。

 

サーム・ルールとは、元FRBのエコノミストであるクローディア・サーム氏によって考案されたものです。直近3ヵ月移動平均が過去12ヵ月間の3ヵ月平均の最低値と比較して0.50%以上上回れば、景気後退に陥る可能性が高いとされているものです。

 

景気後退シグナルが点灯とされた結果、8月2日のNYダウは▲610.71ドルと大幅に下落しました。9月のFOMCでの大幅利下げ観測が出て、週明け月曜日8月5日のドル円レートは瞬間的には1ドル=141円台を記録、8月5日の日経平均株価は▲4,451円28銭という史上最大の暴落を記録しました。

 

9月発表の米国の経済指標に深刻な景気後退に陥る可能性は小さい!?

その後発表された、米国の経済指標は深刻な景気後退に陥る可能性は小さいと感じられるものが多いと思われます。8月の雇用統計では、失業率は4.2%と前月から0.1ポイント改善しました。

 

8月の消費者物価指数では、全体は前月比+0.2%、前年同月比+2.5%と、7月の+2.9%からガソリン価格の低下などで鈍化傾向が続いたものの、変動の激しい食料・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.3%、前年同月比+3.2%と7月と同じ伸び率になりました。

 

7~9月期の実質GDPに関する事前予測値をみると、アトランタ連銀のGDPナウは直近の9月9日発表分で前期比年率+2.5%、NY連銀スタッフ・ナウキャストは直近の9月13日発表分で同+2.57%です。なお、NY連銀スタッフ・ナウキャストの10~12月期の見通しは同+2.17%です。

 

こうした状況をみると、9月17~18日のFOMCで、FRBは利下げ開始に踏み切りますが、まず0.25%の利下げを実行し、0.5%の大幅な利下げを行う可能性は後退したと考えるのが普通かと思われます。

 

それにもかかわらず、WSJ紙の、「FRBの利下げジレンマ『大きく始めるか小さく始めるか』来週の利下げはほぼ確実も、その幅が0.25%か0.5%かは際どい判断」という記事などを材料に9月13日も市場は変動したようです。

 

相場を動かしたい市場参加者は当然多いようです。もちろん、万が一9月17日に公表される8月小売売上高が非常に弱い場合などは、0.5%の可能性は排除できないので、注視が必要でしょう。

 

[図表2]2023年・2024年の米消費者物価指数
[図表2]2023年・2024年の米消費者物価指数

 

[図表3]GDPナウ(米国2024年7‐9月期実質GDP成長率予測)と実質GDP
[図表3]GDPナウ(米国2024年7‐9月期実質GDP成長率予測)と実質GDP

 

※なお、本記事は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

 

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