既存住宅はさらに低断熱な現状
上記は、我が国の新築住宅の断熱性能に係る基準についてです。既存住宅は、さらに「お寒い」状況です。
国土交通省の資料によれば、2019年度の既存住宅のうち、現行基準(6地域:UA値0.87)を満たしているのは、わずかに13%です。多少断熱されているレベルの平成4年基準と昭和55年基準の合計は58%、ほぼ無断熱の住宅は29%にも上ります(図表2)。
さらに、断熱性能を決めるもっとも重要な要素である窓の断熱化については、すべて1枚ガラスの住宅が68%にも上っています(図表3)。
1枚ガラスのサッシは、多くはアルミサッシだと思われます。アルミは樹脂の約1,400倍もの熱を通します。そのため、アルミサッシの1枚ガラスの家では、どうしても冬には結露が生じますし、暖房しても冷気が降りてきて足元が寒くなります。冬暖かく、夏涼しい快適な暮らしの実現は困難です。
ちなみに日本以外の国々では、アルミサッシはほとんど使われていません。
住宅の断熱性能はなぜ大切なのか?
ではなぜ、住宅の断熱性能が重要なのでしょうか? 住宅の断熱性能は、暮らしの質という観点からあらゆる面に影響を及ぼします。
まず健康面ですが、高齢者にとっては、ヒートショックのリスクが高まります。ヒートショックとは、家のなかの室温差に起因して、脳や心臓に負担がかかることを指します。特に多いのが冬の入浴時です。冬の入浴時の死亡者数は、消費者庁によると19,000人/年とされています。これは年間の交通事故死者数の7倍以上に上ります(関連記事:『日本の家「寒すぎる脱衣所」…年間“約1.9万人”が亡くなる深刻』)。
また、断熱改修を行うと、血圧が下がることも、国土交通省の支援により平成26年から行われた「断熱改修等による居住者の健康への影響調査」の調査結果の中間報告(平成31年)で公表されています(関連記事:『血圧もコレストロール値も上昇…命を縮める「日本の寒すぎる家」恐ろしい実態』)。
さらに、喘息やアレルギーとの関係も明らかになっています。新築戸建て住宅への転居を経験した24,000人を対象とした、転居前後の体調変化を聞くアンケート調査によると、手足の冷え、目やのどの痛み、気管支炎、花粉症、アトピー性皮膚炎など、尋ねたすべての症状に対して、転居後の断熱性能が高いほど、転居前に症状が出ていた人のなかで出なくなった人の割合が高くなるという結果が出ています(図表4)。
つまり、住宅の高断熱化には居住者のアレルギー、喘息等の症状に対して健康改善効果があることが明らかになっているのです。高断熱化すると、なぜ、これらの症状が改善されるのかは医学的には明らかにされていませんが、一般的には結露との関係といわれています。
結露が起きると、どうしてもそこにカビが発生します。カビはダニの餌になるため、結露が生じる家は、アレルゲンとなるカビ・ダニが生じやすいのです。十分に高断熱化すると、結露が生じにくくなるため、家のなかからアレルゲンが減るのです(図表5)。
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