写真提供:HAN環境・建築設計事務所

知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは「断熱・気密性能」。家を新築される9割以上が日本の住宅性能は優れていると思われているようですが、実際のところ、住宅の基本性能である「断熱・気密性能」に関して、日本は先進各国のなかで大幅に劣っている状況にあるのです。詳しく解説していきます。

高断熱住宅の暮らしはとにかく快適!

高断熱住宅の暮らしは、とにかく快適です。個人的には、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が劇的に向上するといっても過言ではないと思っています。

 

暮らしが快適になるのは、さまざまな要因があり、簡潔に説明するのは難しいのですが、まずは、冬に家中が暖かいということが大きいと思います。暖房を切って寝ていても、起床の際にそれほど室温が下がっていないので、ベッドから抜け出すのに勇気は必要なく、すっと起き出すことができます。

 

また暖房時に冷気が足元に落ちてくる現象(コールドドラフト)が起こらないため、足元が寒くなく、床暖房などなくても快適に過ごせます。

 

さらに、室内側の壁が外気の影響で熱くなったり、冷たくなったりしないので、輻射熱の影響があまりありません。

 

人の体感温度は、温度計で測る室温と壁の温度の平均値といわれています。高断熱住宅は、室内側の壁の温度が室温と変わらないため、冷房も暖房も穏やかな温度設定で快適に過ごせます。そのため、冷暖房時も体に優しく、快適に過ごせるのです(関連記事:『高気密・高断熱の暮らしは、人生の質(QOL)を激変させる!?』)。

断熱性能を高めたほうが経済的に得

そして、断熱性能を高めたほうが経済的にも得をします。

 

日本では、不思議なことにクルマ選びの際には燃費性能を重視しますが、住宅については燃費性能という概念がほとんどないようです。多くの消費者は、建築費や分譲価格を重視し、冷暖房光熱費や維持コストをあまり意識せずに、住まいづくりをしています。

 

欧米では、住宅選びでも燃費性能を重視する傾向が強いのに対して対照的です。断熱性能を高めると、当然、建築費は増えます。住宅ローンの支払額もそれに伴い増えます。ですが、一般的には高断熱化に伴う冷暖房光熱費の削減額はそれを上回ります。

 

北九州市は、独自に「北九州市健康省エネ住宅」という独自制度を定めており、UA値0.38というかなりの高断熱仕様を推奨値としています。そして、北九州市は、省エネ基準(等級4:UA値0.87)に比べて、図のように、毎月の支払額は、推奨値の高断熱仕様のほうが月平均で90,200-82,900=7,300円/月も得すると試算しています(図表6)

 

【図表6】
【図表6】

目指すべき断熱性能は?

では、どの程度の断熱性能を目指すべきなのでしょうか? 

 

建築物省エネ法では、「断熱等性能等級」が定められています。断熱等級4が2025年4月から新築では義務化される省エネ基準、そして遅くても2030年までには、断熱等級5に義務基準が引き上げられることになっています。

 

そのため、これから家を新築もしくは購入するのであれば、最低でも断熱等級5は確保しておかないと、6年後には最低基準を満たさなくなります。専門家の間では、断熱等級6が高断熱と呼べる最低レベルといわれています。

 

このレベルは、エアコン1台で家じゅうを快適な室温に維持することができ、また全館冷暖房にしても増エネにならない水準といわれています。このレベルは確保することをお勧めします(図表7)

 

【図表7】
【図表7】

 

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