前回は、「生活保護受給者」の部屋探しはなぜ難航するのかを取り上げました。今回は、保有物件で「無店舗型の風俗業」の営業を許可するメリットを見ていきます。

警察の管理下にあり安全、暴力団関係者は締め出しへ

「無店舗型性風俗特殊営業」なるものがあります。キャバクラやソープに許可が必要なのと違って、管轄警察に届け出をすれば営業できるのが、この「無店舗型性風俗特殊営業」つまりデリバリーヘルスです。「無店舗でもいいの?」と聞かれるかもしれませんが、店舗があったらダメなのです。許可制にしてしまうと、行政が正式に認めてしまう形になるうえに、通常の風俗店と同列になってしまうからだと思われますが、この届け出をすれば出張ソープや出張ヘルスのような店を経営することができます(ただし本番はできない決まりです)。

 

その昔、違法のマンヘル(マンションヘルス)、マントル(マンショントルコ)、映画鑑賞会などがあり、これらが暴力団の組関係者の資金源になっていました。当然、税金など払っているはずもなく、店と客がトラブルになっても、無許可であるがゆえに警察も呼べないため、ヤクザにお金を払ってもめ事を処理してもらうわけです。

 

この問題を解決するために新しい法律ができて、誰が経営しているのか、店名や電話番号、スタッフの名前、店の間取り、どんなサービスをするのか、女の子の年齢はいくつか、といったことを警察署に届け出をするようになったのです。店名を表記している以上、儲かれば税金も払ってもらいますということになるわけです。

 

その代わり、何か問題があれば警察に連絡して来てもらうことも可能になりました。しかも経営者やスタッフの中に組関係者がいれば、届け出も受理しないし摘発して営業をさせないので、組関係者の締め出しも兼ねているのです。

 

こうした風俗業は組関係者の「しのぎ」でしたが、この法律によって一般の人も大手を振ってデリバリーヘルスを営業できるようになりました。その結果、「風俗=儲かるうえに女の子商売で楽しそう」という理由で開業希望者が殺到したのです。ワンルームでもできて資金も少ない額でOKとなれば、独立開業、起業をすすめる書籍が多数出版されたことも理解できます。

 

これは不動産屋にとっても大きなチャンスとなりました。現在でも、独立してデリヘルを開業したいという人がしょっちゅう来店します。部屋を借りても、無店舗型として届け出をしているため、その場所でサービスはできません。事務所や女の子の待機場所として使う部屋を探しに来るわけです。ワンルームから3LDKなど、その規模によって希望の部屋を探します。

 

こうした部屋は、店舗でもなく、お客さんも来店しませんので、一見、静かな事務所といった使い方になります。儲かっていて女の子の在籍数が多い事務所は、女の子の出入りが多くなり、夜間帯にハイヒールの音やドアの開閉の音でクレームが来ることはありますが、接客しないため、基本的にクレームが少ない事務所だといえます。

 

しかし、実際経営となれば、素人が風俗、女の子の扱いなどできるはずもなく、始めても3~4カ月で辞めてしまうことがほとんどです。経営は難しく、お客さんを呼ばなくてはならないけれど、お客さんが来ても女の子がいないとなれば商売になりません。

 

お客さんも女の子もいる状態を維持しなければなりませんが、稼げる女の子はお客さんの来ない店は辞めてしまいます。女の子を引き止めるためには、お客さんがいない日も給料を保証しなければならず、店側は女の子全員に1~2万円を払うことになるのです。こんな日が何日も続いたら、すぐに資金が足りなくなってしまいます。こうした理由で、だいたい3カ月程度で部屋は解約となってしまうのですが、またすぐに次の希望者が現れて契約することになります。うまく事業が軌道に乗ればすぐに2号店を探すことになります。

回転が速くても、敷金・礼金が手元に残る

こうした用途の部屋の場合、普通の契約とは違って特殊事務所扱いですので、敷金、保証金などの名目で家賃2~4カ月、物件によっては6~10カ月程度を預かります。入れ替わりが激しいうえに、特殊扱いとして預かった敷金や保証金には、解約時償却といって敷金などが全額は戻らないという条項が付いています。

 

敷金を4カ月預かっていても、「解約時2カ月分償却」と契約にあれば残りの2カ月分から現状復帰費用とクリーニング費用を払います。事務所は東京ルール(賃貸住宅紛争防止条例。退去時の現状復帰のための費用負担について定めたもの)の適用外ですので、敷金や保証金はほとんど戻らないのが現実です。そのため、3~4カ月で退去されても大家さんが困ることはありません。

 

また、事務所の解約予告は3カ月前以上ですので、やっていけなくなった入居者は敷金を捨てて早めに出ていってしまいます。味をしめた大家さんは、またデリヘルの事務所OKということで次の入居者を募集するのです。

 

デリヘルを起業した人が警察署に届け出をする際には、大家さん(所有者)が発行する承諾書が必要です。これがなければ届け出は受理してもらえません。その承諾書料という名目で、家賃1カ月分をいただくことにしています。その対価として、特殊事務所の説明や用紙の用意はもちろん、問題が起こったときの対処を行っています。

 

都内の不動産屋でも、知識不足のためにデリヘル用の事務所が紹介できない業者もあり、募集図面に承諾書OKと書いても「承諾書とは何のことですか?」と尋ねてくる業者もいるほどです。また大手の不動産会社は、こうした部屋の賃貸は邪道だと思っているため手を出しません。そのため、デリヘル事務所を扱う不動産屋が独占できる、ありがたいお客様です。

 

私の会社では、これからデリヘルやアダルト映像配信等(※)の事務所を開業するための承諾書の必要なお客様に、開業のアドバイスや届け出の方法、気をつけなければいけないことなどのコンサルを行うほか、風営法関連の許可取得に特化している行政書士なども紹介しています。

 

※映像送信型性風俗特殊営業届出:有料でアダルト映像配信を行うための届け出で、デリヘルと同じく承諾書が必要です。女の子の待機もなく、パソコンだけで営業の電話も使わないため、大家さんにとっては、高い賃料が取れて比較的静かな事務所ですので、不動産屋がしっかりしていればとてもいいお客さんなのです。

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    本連載は、2016年10月21日刊行の書籍『誰も知らない不動産屋のウラ話』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    誰も知らない不動産屋のウラ話

    誰も知らない不動産屋のウラ話

    川嶋 謙一

    幻冬舎メディアコンサルティング

    “ディープタウン新宿"の不動産会社社長が業界のアブナイ裏話を一挙公開! 「学歴ナシ」「若さナシ」「経験ナシ」「金ナシ」でも儲かる仕組み、意外な慣習とは── 2回の自己破産を経験し、ありとあらゆる職業を渡り歩いて…

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