高失業率を伴う、急激な景気失速のリスクに直面している
そのほか、ジャクソンホール会議で興味深い点として、「政策当局者が利下げが後⼿に回り、⾼失業率を伴うハードランディング(景気の急激な失速)となるリスクに直⾯している」といった主旨の論⽂が公表されたことです。
論⽂では、求⼈数と失業者数がほぼ⼀致している場合、⾼インフレ抑制には失業率の⼤幅な上昇を伴うとして、⽶国が1970年代に⾼インフレと⾼い失業率の同時進⾏に⾒舞われた例を挙げています。⼀⽅で、求⼈件数が失業者数を上回るといった、労働需給ひっ迫の状況においては、インフレ抑制により、失業率が上昇しにくいと指摘しています。
2022年に、ウォラーFRB理事が執筆したレポートにおいても、コロナ禍で急上昇した「失業者1⼈当たりの求⼈数」を1倍に近づけることで、失業率をそれほど上昇させることなく、インフレを抑制できることが論じられています。実際に、この説が正しいことは証明されています。
「失業者1⼈当たりの求⼈数」は、2022年3⽉の2.0をピークに、2024年7⽉に1.2まで低下しています(図表5)。
この間、インフレ率(コアPCEデフレーター)は、2022年9⽉につけた前年⽐+5.5%をピークに、⾜もとは同+2.6%に低下したものの、前述の通り、失業率は4.3%と急激な上昇は回避されています。
論⽂では、求⼈数と失業者数が拮抗し、失業率が⻑期平均を下回っているため、FRBが2%のインフレ⽬標を達成できる、と結論づけています(求⼈数と失業者数の推移は、図表6参照)。
もっとも、「失業者1⼈当たりの求⼈数」の低下が続けば、失業率が急上昇する閾値に達し、「失業者1⼈当たりの求⼈数」が0.8倍に低下した場合に、失業率は5%以上に急上昇するとの予想も⽰しています。
⽶調査会社コンファレンス・ボードが公表した、2024年8⽉の消費者信頼感指数は、103.3と、7⽉(101.9)から上昇し、2⽉以来の⾼⽔準となりました(図表7)。
同指数は、4⽉の97.5や6⽉の97.8を底に、緩やかに上昇しています。内訳をみると、現況指数(7⽉︓133.1→8⽉︓134.4)、期待指数(7⽉︓81.1→8⽉︓82.5)ともに上昇しました。もっとも、インフレによる家計負担の上昇や労働市場の軟化もあり、消費者信頼感指数の⽔準は、依然としてコロナ禍前を下回っています。
雇⽤環境に関する指標として、「職が豊富」との回答(7⽉︓33.4%→8⽉︓32.8%)が低下する⼀⽅で、「職探しが困難」との回答(7⽉︓16.3%→8⽉︓16.4%)が若⼲上昇した結果、前者から後者を差し引いた労働市場格差は、7⽉の17.1%から8⽉に16.4%へ低下しました(図表8)。
また、今後6ヵ⽉の収⼊が「増加する」との回答(7⽉︓71.2%→8⽉︓70.4%)が低下し、「減少する」との回答(7⽉︓11.6%→8⽉︓12.7%)が上昇しました。
労働市場に対する慎重な⾒⽅は、求⼈件数の減少や失業率の上昇などを反映しているとみられます。住宅の購⼊計画に関する指標は、単⽉の振れが⼤きいものの、8⽉は⼤幅に低下しました(図表9)。
今後6ヵ⽉以内に、住宅を購⼊するとの回答は、7⽉の4.7%から8⽉に4.1%へ低下しました。⽶⻑期⾦利はピークアウトこそしたものの、⾼⽔準が続く下で、家計の住宅購⼊意欲は冷え込んでいるとみられます。家計は将来の⾦利低下に対する期待(図表10)や、⼤統領選挙後の住宅購⼊に対する政策⽀援を期待して、住宅購⼊を⼿控えている可能性があります。
1年先の期待インフレ率は7⽉の+5.3%から、8⽉には+4.9%へ⼤きく低下しました。コロナ禍後に初めて5%を下回り、平時の⽔準に回帰しつつあります。期待インフレ率の低下はここ数か⽉、インフレが減速したことを⽰すCPIなどのデータと⼀致しており、FRBの利下げを後押しする材料となります。
東京海上アセットマネジメント
※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『【米ドル円】東京海上アセットマネジメントが振り返る…8月最終週の「米国経済」の動き』を参照)。
※本記事は東京海上アセットマネジメントの「TMAMマーケットウィークリー」の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が文章を一部改変しております。
※全文は「TMAMマーケットウィークリー」をご確認ください。
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