フェルナンド「すべてがすごく下がったから何も売りたくない」
ここで、フェルナンドとゴルディータはひとつの決断を迫られた。「売るべきか、売らざるべきか。それが問題だ」唯一の問題は、この2人の意見が一致しないことだった。
「それじゃあ」と我が通訳者は仲裁人の口ぶりで言った。「二人はどうすればいいの? フェルナンドはすべてがすごく下がったから何も売りたくない、今はそのまま持ち続けて、価格が戻るのを待つべきだと考えている。フェルナンドが言うには、単なる……」
「単なる紙の上のこと」と義弟が助け舟を出すと、クリスティーナが応じた。「それそれ。紙の上のこと。今のところ損失は紙の上だけだけど、一旦売却すれば、それでおしまい。お金は戻ってこない」妻は彼女自身、最後の言葉に半信半疑な様子で肩をすくめた。そして今度はもっと勢い良く付け足した。
「でもゴルディータはこう考えているの」そのときゴルディータは私の方を向いて、目を細めて視線を投げかけた。まるで「自分が可愛いなら、あたしの味方をするべきよ」とでも言いたげに。「全部売り払って、一からやり直すべきだって。えっと、英語でなんて言えばいいの?『丸ごと清算する』かな。あなた、どう思う?」
私はしばらく考えた。面白い、と私は思った。価格に関係なくすべてを売り払って悪夢を過去のものにし、最初からやり直したい、というゴルディータの欲求は、私にも充分すぎるほど覚えがある。つらい経験に区切りをつけて過去のものとしたい、それにまつわるあらゆるネガティブな暗い感情と縁を切りたい、という身を切るような欲求。それこそ、何年も前に私自身が体験した欲求だった。
私が逮捕されてから数年間の暗黒時代のことだ。スローモーションで死に向かうような、息苦しい感覚だった。富の象徴がひとつ、またひとつと我が身からゆっくりと引き剝がされるような苦しみ。なまくらの剣で緩慢に殺されるようなものだった。いっそのこと、すべてを一気に失い、牢屋に入り、服役するほうがどれだけマシかと思ったことを覚えている。
つらい経験の痕跡――私の場合は車、家、船、服、お金、妻、時計、宝石。義弟夫婦の場合はクズ株、クズコイン、ゲロNFT――がすべてなくなるまで、嫌な記憶に埋もれて、新しい一歩を踏み出すための深呼吸ができなかった。だから、ゴルディータの言うことも一理あった。
一方で、フェルナンドの考えもよくわかる。終わりにしたいという一時の感情に負けるよりも、理性的で論理的なアプローチのほうが最終的には得だ。結局のところ、みんな余りにも値下がりしてしまったのだから、売ったとしてもたかが知れている。3000ドルを取り戻したところで、焼け石に水だ。たったそれっぽっちなら、売っても売らなくても大して変わらないじゃないか。紙の上の損失を現実の損失にして、お金を取り戻すチャンスを失うことに何の意味があるのか。
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