最初の儲けで調子に乗って大損した義弟の結末
6週目の末までに、勝負は決まっていた。丸々1ヵ月以上、勝ちがひとつもなく、10万ドルの元手から、残高は1万ドルを切り、3000ドルに向かっていた。
どうやったらここまで一貫してヘタを打ち続けることができるのだろうか? ほかの面で義弟がどんな人物かを知っている身としては、本当に不思議だった。彼はまさに絵に描いたような成功者であり、立身出世の鑑(かがみ)だ。ブーツにまで気を配る洒落者でもある。
彼の本業は金属業であり、ブエノスアイレスの郊外に大きな工場を所有している。結婚したばかりで、若い妻ゴルディータと可愛い2歳の息子ヴィットリオと共に、内装がピカピカに整えられた寝室が3つもあるマンションに住んでいる。そこはブエノスアイレス屈指の高級で安全な地域にそびえる46階建てのミラーガラス張りのタワーで、その33階をワンフロア占有している。
その夜、白い麻のホルタートップを着たゴルディータは困り顔で私の左隣に座っていた。可哀想なゴルディータは、夫の無残な投資報告書を理解できないでいた。私は心から同情していたが、こんなに緊迫した瞬間にも、私は笑わずに、彼女の顔を直視して名前を呼ぶことができなかった。
ゴルディータはスペイン語で「太っちょの女の子」という意味だが、彼女自身は身長165センチ、体重45キロのブロンド美女だ。だから、アルゼンチンでは「太っちょの女の子」が愛情を込めた呼び名だと聞かされても、彼女がみんなからゴルディータと呼ばれていることの違和感が拭えない。
もちろん、私にはこんなジョークがすぐさま頭に浮かんだけど。「やあゴルディータ、調子はどうだい。体重のことはさておき。最近もホットドッグの早食い競争に出場しているかい?」もっとも、本当にゴルディータな女の子をゴルディータとは呼ばないという暗黙の了解はあるらしい。
それはさておき、私の義理の妹は、矛盾が服を着て歩いているようなものだ。彼女にはオルネーラという本名があるが、誰もそう呼ばないし、ゴルディータと瓜二つの姉クリスティーナ――何を隠そう私の四番目の妻だ――を含む誰もが不釣り合いなあだ名で呼ぶ。
このとき、ゴルディータは座ったまま前に身を乗り出し、驚愕を露わにした。頭を抱え込み両肘をテーブルにつき、上半身を45度の角度にかがめて「いつになったらこの悪夢から覚めるの」とでも言うように頭をゆっくり前後に振った。
そりゃそうだろう、と私は思った。フェルナンドの投資にはほとんど関わっておらず、事後報告を受けただけのゴルディータは、夫婦共有の証券口座を空っぽにした夫が献身的な妻からかけられて然るべき言葉をかけた。
「何考えてんのよフェルナンド! あんたバカなの? よく知りもしないことに手を出して。ロビンフッド[訳注:投資アプリ]のアカウントなんかさっさと削除して、金属工場に戻れっつーの。そうすりゃあ少なくとも一文無しになることはないだろうから!」
ゴルディータが有能な秘書タイプだったことで、事態はフェルナンドにとってさらに厄介になった。何でも管理したがり、どんな細かいことも見逃さないタイプで、私やクリスティーナを含む家族全員の運転免許の失効日やパスポート番号を記憶するのが自分の役目だと思い込んでいる。つまり、誰も彼女を誤魔化すことはできないのだ。
しかし、その夜は形勢が逆転していた。ゴルディータがクリスティーナに頼る、滅多にない場面だった。それも通訳として。そのため、クリスティーナはフェルナンドとゴルディータと向き合う形で、私の右隣に座った。
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