労働契約率も低迷する農民工
正式な労働契約によって雇用されている外出農民工は2014年38%、08年に労働契約法が施行されて以来、改善が見られていたが、再び悪化している。中国労働保障科学研究院によれば、農民工も含めた全体の労働契約率は13年末88.2%、農民工はその他の労働者に比べ、労働契約で保護されていない場合が多いことが窺える。この背後にも、保険と同様、コスト削減を追求する雇用主と、勤務地を移動する農民工双方の事情がある。
このように、流動性の高い農民工の権益が保証されず、その福利厚生水準が低い状況に対し、中国の労働問題の学者らは、市場と組織(政府、および農民工組織)の失敗の産物という理論的整理をしている。
すなわち、一般的に、市場の失敗は市場に参加する組織によって是正される必要があるが、雇用主とともに既得権益側にある政府関係者は、都市戸籍者と農民工を分離することで既得権益を維持しようとし、労働市場の失敗を是正しようとしない。また都市戸籍を持たず、労働移動の高い農民工が都市部で自主的な組織を形成することは行政的に認められず、また実際上も難しい。
「中所得国の罠」を回避できるか?
言うまでもなく、農村から都市部へ流入する安価な出稼ぎ労働力は、中国経済の高成長を支えてきた原動力で、長い間、その供給は「不尽蓄水池」、尽きることのない貯水池と言われてきた。
農民工調査を通して見られるその動態変化は、中国政府にとって、経済の新常態への移行が不可避であることを改めて示すとともに、劣悪な福利厚生や都市戸籍者との格差改善が進んでいないこと、そしてその背後にある事情を見ると、そうした移行が挑戦的な課題でもあることが明らかだ。4月、楼継偉財政部長(大臣)が、中国経済が今後5-10年以内に「中所得国の罠」に陥る可能性は50%以上あると発言し、注目された。
その際、罠を回避するためには、農業、戸籍、労働・雇用、土地、および社会保険の5つの分野での改革が必要と主張、同部長は農民工に明示的に触れてはいないが、結果的に、何れも農民工に密接に関係する改革の必要性を主張した形となったことは偶然ではない。