都市戸籍を持たない「半城鎮民」をどうするか
農民工の絶対数はなお増加しており、都市居住人口でみた城鎮(都市)化率は上昇、2014年54.8%に達した。他方、都市戸籍を有する人口比率は35.9%とほぼ横ばい、このかい離19%弱にあたる約2.6億人、農民工の大半が都市戸籍を持たず都市で居住している「半城鎮民」だ。
昨年3月に中国政府が発表した「新型城鎮化発展規画(2014-20年)」では、都市化目標として、都市居住比率を60%、戸籍率を45%まで高め、両者のかい離幅を縮めること、そのために、さらに1億人の農業人口を都市部に移転させ、すでに都市で居住している農民工も合わせて都市戸籍を付与していくことが掲げられているが、今のところ、数値的には目立った進捗は見られない。
昨年7月、国務院(日本の内閣に相当)が戸籍制度改革に関する意見を発表、これに基づき、2015年7月時点、31省市区のうち20の省区が都市と農村戸籍の区分を廃止し、外国のグリーンカードを参考にした居住証制度を整備する方針を明らかにしている。
意見は中小都市の戸籍分離の廃止をうたう一方、大都市については人口管理の観点から、引き続き都市戸籍取得に「合理的な」条件を課すことを求めており、事実上、農民工の多い大都市での戸籍問題は棚上げの状況だ。上記20の省区でも、戸籍分離廃止はうたっていても、それが農民工の福利厚生改善にどうつながるのかという最も肝心な点は明らかでないところが大半だ。
本年2月には、中共中央政治局常務委が公安改革深化に関する意見を決定、その中でも、現在都市が都市戸籍を有しない者に対して発行している暫定居住証を全面的に廃止し、居住証に代えることが決定されたが、「換湯不換薬」、名称を変えただけで実態は変わらないとの声が聞こえる。
また、大量の農民工が流入している大都市については、居住証発行に厳しい条件が要求されているもようだ。さらに、農民工に都市戸籍を付与した場合に、農民が本来有している、農地に対する土地経営権、住宅使用権、集体収益分配権の「3権」をどうするのかという根本的な問題の検討は棚上げのままだ。50年以上にわたって続いている戸籍改革の必要性は長い間指摘されてきたが、「雷声大、雨点小」、かけ声は大きいが進展は少ないと揶揄されている。
政府部門にまで及ぶ「既得権益」の防衛が要因!?
戸籍改革が進まない原因は何か? 多くの議論がなされてきたが、例えば最近では、農村問題や戸籍問題に関して先鋭的な発言で知られる中国のある専門家は、これを計画経済時代の産物と断じ、2つの要因が改革を阻んでいると指摘している。
すなわち、①戸籍分離は農村と都市を効果的に管理し、社会の安定を確保する基礎であるという古い固定観念、②農民工に都市戸籍者と同じ権益を与えると、都市戸籍者から政府部門におよぶ広範な既得権益が浸食されるという懸念である。
前者は、中国では公安部が戸籍制度の所管官庁であることからも頷ける。後者は、農民工に都市戸籍を与えることは、その社会保障、福利厚生水準を都市戸籍者と同等にすることを意味し、地方政府にとって受け入れ難い財政負担となるという主張に繋がる。財政負担がどの程度になるかについては議論があるが、既得権益を守るための口実になっている面が大きい。