中国の習近平政権は一昨年来、成長速度を抑え経済構造の高度化を目指す「新常態」への移行を繰り返し唱えている。国家統計局が毎年発表している「農民工」に関する調査によると、中国経済の高成長を支えてきた農民工人口の伸びは鈍化し、その高齢化が著しい。また、農民工の労働環境は改善せず、都市戸籍者との格差も深刻なままだ。調査結果は、新常態への移行が不可避であること、しかしそれは困難な道のりでもあることを改めて示している。本連載では5回に分け、中国経済の新常態移行について、その必然性と困難性を見ていきたい。

「農民工」供給はピークへ、そして進む高齢化

農村から都市部への出稼ぎ労働者、いわゆる「農民工」の多くを吸収してきた華南地区では、2000年以前、工場や建設現場で働く農民工の大半は、「80後」「90後」と呼ばれる20歳台、30歳台の若い層だったが、現在は90%以上が50歳以上だ。

 

「年齢的に体力が衰えているので、肉を食べて体力を補っている」「多くの地方では、60歳以上の農民工が1線の建設現場で働くことが禁止されているため、白髪を黒く染めて、検査を逃れようとする農民工が多い」(中国地方紙)という。

 

 

農民工調査を始めた2008年から14年にかけ、平均年齢は35.5歳から38.3歳へと上昇、40歳以下の若年労働力の割合は65.9%から56.5%へと低下している。農民工総数は2014年2億7395万人で前年比1.9%の伸び、増加はしているが、伸び率は傾向的に低下している。

 

もちろんこの底辺には、中国社会全体に進む高齢化、労働人口の減少がある。マクロ人口統計によると、2014年末の総人口13.7億人、うち60歳以上人口は2.1億人(シェア15.5%)、生産労働人口(16-59歳)は9.16億人だ。11年は60歳以上人口のシェアは13.7%、生産労働人口は9.4億人でこの年がピークだった。さらに、都市部での生活費の上昇、戸籍分離から生じる子女教育の問題などから、30-40歳台の農民工が農村に戻って別の生活の道を選ぶことも多くなっている。

 

農民工が不足する「民工荒」と呼ばれる状況が叫ばれて数年経つが、近年は、①春節の前後に一時的に発生していたものが常態化、②全国的に広がりを見せ、東部沿海地域は一層深刻化、③もっぱら技術工の不足だったものが、一般労働者不足にまで波及しているといった構造変化が見られる。

注目される3次産業への就業構造のシフト

農民工の昨年平均収入伸びは9.8%、現行12次5ヶ年計画初期(2011,12年頃)の20%前後から大きく鈍化している。農民工が多く働く不動産、建設分野や、川下にある低技術の製造加工業が不振であったことが影響している。農民工平均月収2864元に対し、私企業全体は3033元、政府部門や国有企業は4695元だ。

 

国内的には農民工とその他との格差が改善されていない一方、対外的にはそれでもなお高い上昇率で、特に東南アジア後発国との関係で国際競争力の一層の低下を招き(2013年東南アジア後発国の製造業一般職工平均月収は70-150米ドル、約400-1000元、ジェトロ調査)、これまでのように「世界の工場」として、輸出主導で高成長を図ることがますます難しくなっている。

 

他方で、新常態下で成長が鈍化する一方、経済構造の高度化で単純労働者への需要が低下していくことが予想される中で、農民工が将来的に都市部で失業し、経済が縮小均衡に陥る懸念も出始めている。農民工調査では、農民工の就業構造が、製造、建設等2次産業から(就業シェア2013年56.8%、14年56.6%)、サービス業を中心とした3次産業(同42.6%、42.9%)にシフトする傾向がわずかながら見て取れる。こうした傾向が定着するかどうかが、新常態へのスムーズな移行の重要な鍵を握る。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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