苦しみと喜びは表裏一体
私たちは、つらいこと、苦しいことからは、できるだけ逃げようとするものです。
けれども、あえて苦しいことをしてみるのも、決して悪くはありません。なぜなら、苦しさを乗り越えてこそ、大きな喜びが得られるものだからです。苦しいことから逃げまくっていたら、そういう喜びや興奮を味わうことはできません。
たとえば、学生時代の部活動を思い出してください。
ハードな練習をしたあとでは、その直後に飲むお水がものすごくおいしく感じませんでしたか。ただのお水、しかも学校の水道水でもです。それにもかかわらず、苦しい練習を終えたあとには、私たちは「うわぁ〜、うまい!」とただの水でも心の底から喜びを感じるのです。
受験勉強もそうですね。
眠い目をこすりながら、化学式を覚えたり、英単語を覚えたりするのはとても苦しいことではあるものの、そういう苦しさを乗り越えて頑張るからこそ、合格発表のときには心から「やったぁ!」と快哉(かいさい)を叫ぶことができるのです。
いろいろな宗教で、あえて苦しい修行をさせるのはどうしてでしょうか。おそらくは、本当の意味での心理的な喜びや興奮を得るためでしょう。苦しいことを乗り越えてこそ、恍惚感を得るほどの喜びがあるのです。
最近の人は、とにかく少しでも苦しそうだと思うと最初から逃げてしまいます。
そういう生き方をしているので、人生に喜びを感じられにくくなっているのではないでしょうか。
カリフォルニア大学のキャサリン・ネルソンは、 「子育ての苦しさと喜び」というタイトルの論文を書いているのですが、子育てはとても大変ではあるものの、大変な思いをするからこそ、わが子が立ったり、歩いたりするのを見ると、これ以上はないという喜びを感じることができると述べています。
最近の若い人は、 結婚なんて面倒くさいだけ、 育児なんてつらいだけで絶対にやりたくない、と考えているのではないかと思います。
ですが、 「つらいだけ」というのは必ずしも正しくありません。つらいからこそ、うれしさもあるのです。その点を忘れてはいけません。
実際に子育てをしてみるとわかるのですが、自分の子どもの笑顔を見ると、つらい気持ちなどいっぺんに吹き飛びます。 そういう気持ちというものは、 親になってみないとわかりません。
世の中の出来事というものは、苦しいように思えても、苦しさだけではなく、喜びもちゃんとあるものです。
仕事でも、結婚でも、子育てでも、苦しいからこそ、喜びもあるのだということはきちんと理解しておくべきでしょう。
チョコレートを誰よりも美味しく食べる方法
「何を食べてもおいしく感じない」
もし読者のみなさんがそんなふうに感じているのだとしたら、なんでもおいしく食べるための魔法をお教えしましょう。
それはお腹をすかせること。
お腹がいっぱいだからおいしく感じられないのであって、お腹と背中がくっついてしまうくらい空腹になれば、なんでもおいしく食べられるのです。
惰性のように1日に3回の食事をとるのではなく、あえて1食だけ抜いてみてください。それだけでもずいぶんと違います。
ハーバード大学のジョルディ・クォイドバックはチョコレートが大好きな人を集めて、次のような実験を試みました。
第1グループは、我慢グループ。
このグループには「1週間、どんな種類のチョコレートも食べてはいけません」という指示を出しました。
第2グループは、自由グループで、2ポンド(約907グラム)のチョコレートを与えて、「好きなだけ食べてください」と指示しました。
第3グループは比較のためのコントロール条件です。このグループには、チョコレートに関して何も指示しませんでした。
それから1週間後にまた実験室に来てもらい、チョコレートを試食してもらって7点満点でおいしさに得点をつけてもらいました。
すると、1週間チョコレートを食べるのを我慢したグループが最もおいしさを感じる結果となりました。
日本はとても豊かな国ですから、普通に食事をしているつもりでも、食べ過ぎてしまうことが少なくありません。そのため「何を食べてもおいしくない」と感じる人の割合は増えているような気がします。
せっかくの食事なのですから、できるだけおいしくいただきたいですよね。そのためには、あえてちょっぴり断食してみるのがおススメです。お腹がすけば、何を食べてもおいしく感じられると思います。
内藤 誼人
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、心理学の応用に力を注ぎ、ビジネスを中心とした実践的なアドバイスに定評がある。『心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる! 暗示大全』(すばる舎)、『気にしない習慣』(明日香出版社)、『人に好かれる最強の心理学』(青春出版社)など、著書多数。
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