(※写真はイメージです/PIXTA)

電話に、メールに、ラインにと、通信手段が多い現代では「直接会う」ことがおろそかにされがちだ。しかし、相手が老親の場合、声や文字だけのコミュニケーションでは大事な情報を見落としてしまうことがあるかもしれない。実情を見ていく。

「健康的な生活を送っていると思っていたのに」

仕事に忙殺されていたある日、仕事中に男性の弟から電話が入った。父親が倒れたとの連絡だった。

 

「自転車に乗って出かけた先で倒れたそうです。心筋梗塞でした…」

 

周囲に人がいたため、すぐに救急病院へと搬送されたが、残念ながら帰らぬ人となってしまった。

 

男性はかろうじて死に目に会えたが、久しぶりの父の姿に驚きを禁じ得なかった。

 

「ビックリするほど、がりがりに痩せていたんです。父は肥満とは無縁の体型でしたが、それでも畑仕事でそれなりに鍛えられていたのが、見る影もなくなっていました」

 

その後、男性は数年ぶりの実家へ。すると、自家用の野菜を植えていた自慢の畑は荒れ放題となり、ススキや葛が生い茂っている。農機具を入れていた物置も屋根が崩れ、道具類は雨ざらしとなり、錆びていた。

 

「弟に〈いつからこんな状態だった?〉と聞いたら、わからないと。弟はたまに食事に誘ったりしていたそうですが、街中の飲食店で食事をして、食べ終わったらそそくさと帰ってしまうとかで…」

 

母親が亡くなったあと、弟の家でも「野菜は持ってこないで」と断っていたという。

 

「サラリーマンだった父は、年金を月15万円ぐらいもらっていました。貯金も自宅も畑もあるから、生活には問題なく暮らしているだろうと思っていたのですが…」

 

久しぶりに足を踏み入れた実家の部屋は、それなりに片付いており、心配した「ゴミ屋敷状態」ではなかったが、冷蔵庫には食べ物がなく、テーブルには食パンが、台所の床にはスーパーの袋に詰め込まれたカップ麺とペットボトルの麦茶が直置きされているだけという、食生活の偏りが一目でわかる状態だった。

 

「野菜もずっと作っていないようでした。ただ、母の位牌がある仏壇には、みずみずしい大きな桃が供えられていて…。そこだけ、とてもいい香りがしていました。桃は母の好物だったんですよね…」

 

上述の株式会社LIFULL seniorのアンケートによると、親の生前に話し合えなかったこととして、35.8%の人が健康状態をあげている。

 

親の死を経験した方に聞いた「親が生前のうちに十分に話し合えなかった話題」

 

家の片付けや遺品整理………44.2%

遺産や相続………41.5%

老後の医療や介護ケア………38.5%

老後の資金計画や経済面………36.5%

健康状態………35.8%

葬儀………35.0%

お墓や散骨………26.9%

介護施設への入居や住み替え………20.8%

特になし………2.7%

 

n=260 複数回答可

株式会社LIFULL senior(みんなの遺品整理)

 

親が語る「大丈夫」は、ときに疑う必要があるかもしれない。元気だったときの記憶を思い浮かべつつ、電話だけでコミュニケーションしていると、大事な情報を見落としてしまうこともある。

 

この機会に、ぜひ電話だけではなく実際に両親へと会いに行き、様子を確かめてみてほしい。

 


[参考資料]

厚生労働省『令和4年人口動態』

内閣府『令和5年版高齢社会白書』

株式会社LIFULL senior「親と話したい“親の今後”にまつわる話題」

 

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