日本人は「言葉にして伝える訓練」が足りていない
かつての日本、とくに研究者の世界では、自身の考えをアウトプットしなくてもとくに問題がない時代がありました。そこには、10年に一度のようなスパンで大きな成果を出せば良し、という風潮があったのです。
しかし、そうした長い目で見る雰囲気は1990年代のコンピューターの普及とともに終わりを告げます。それは研究成果がどの程度引用されたか、どのような影響をもたらしたかという詳細がインターネット上に明確に示されるようになったためです。そうした「情報の透明化」により、良い成果をコンスタントに出していくことが求められるようになりました。
このような風潮は研究者だけの話ではありません。一般社会に生きるビジネスパーソンにとっても、上司をはじめとする社内の人間に対し、アウトプットまでにかかるプレッシャーを相当なものにしています。
そもそも私たち日本人には、考えをアウトプットするための訓練の場が足りていません。その理由には、会話を行う上で話の前提を飛ばし、本題からスタートしてしまうことがあります。たとえば、家族や友人のような親しい人との会話で返事が「うん」という一言で終えられてしまう、スマートフォンで連絡を取り合うにも絵文字やスタンプで会話が完結してしまうことなどが挙げられます。
つまり「あ・うん」で会話ばかりしている状況に日本人は慣れてしまっているのです。そのような状況があって、ビジネスでもとくに話の前提を踏まえて伝えなければならない相手=上司と満足に会話することは難しいでしょう。
「あ・うん」のような簡単な会話で終わらせず、自分の考えを相手にしっかりと伝えるためにも、まずは言葉を尽くしたり、相手の意図をくみ取ったりするなど、最善を尽くすことが大切です。私たちが会話をしている相手の思考を100%理解できないように、相手もまたこちらの思考をすべて読み取れるわけではありません。しかし、相手の考えに寄り添うことはできます。わからないなりに、相手の思考に想いを巡らせて理解しようとする。そうした深いコミュニケーションを意識することで、自身の考えを言語化する力も身につくでしょう。
<ポイント>
●日本人は会話の前提を省いてしまうことが多い。
●本題からスタートした会話で要点が伝わらない。
●「あ・うん」で会話が完結してしまう。
●相手の思考を理解しようと努力することが重要。
「伝わる話」にするには「5W1H」が有効
うまく言語化ができない人の特徴として挙げられるのが、頭の中では言いたいことが整理できていても、それが十分ではないということです。そして相手の理解力に依存して、言葉の組み立てもできていないまま唐突に話し始めてしまい、結果として伝わらないというオチに続いてしまいます。
前項でも触れたように、会話ではまず話の前提を伝えることが大切です。つまり、相手に対してどのような用件を伝えたいのか、何について確認をしたいのかということを最初に説明する必要があります。
ここでポイントとなるのが「自分の頭の中にある考えを明確にする技」と「考えを伝える技」で、以下の「5W1H」を使うというテクニックが有効です。
・When:いつ
・Where:どこで
・Who:だれが
・What:何を
・Why:なぜ
・How:どのように
この5W1Hを押さえてコミュニケーションを行うだけで、用件を過不足なく相手に伝えることができます。また、実際に使うときも「When(いつ)」で始めて「How(どのように)」で必ず終わらなければならないというルールはありません。人物が重要になる話であれば「Who(だれが)」から、場所が重要な話であれば「Where(どこで)」からという形で、状況によって工夫することもできます。第一に考えるべきは、どのようにすれば伝わりやすい順番になるかという点です。相手の立場に立つことも忘れずに、会話の要素を組み立てていきましょう。
<ポイント>
●会話では話の前提を説明する必要がある。
●自分の頭の中にある考えを明確にする技・考えを伝える技が重要。
●5W1Hを押さえたコミュニケーションが有効。
●会話の要素を5W1Hに当てはめて言語化すると伝わりやすい。
言語化スキルを磨くには「日常的なインプット」が大切
言語化力は学べば高められる能力ですが、言葉を組み立てる習慣がない日本人にとっては、身につけるまでに相応の時間がかかります。一方で、その習慣がなかったのであれば、今から言語化力のアップに向けた取り組みを習慣化すればいいのです。
たとえば、思考や得た情報を思いつくままにまとめ、それらを整理するという流れを継続していくことが1つの方法として挙げられます。また、本を読んだり、映画や芝居、音楽に触れたりと何かアクションを起こして思考や情報のインプットを怠らないことも大切です。
とくに読書であれば、古典を読むことをおすすめします。言語化がうまくできないという悩みは、現代人だけのものではありません。古くから多くの人々が考え続けてきた悠久のテーマであり、そこから多くの言葉や思想が生まれていきました。近年、孔子の『論語』や『孫子の兵法書』などの内容をビジネスに活かそうという書籍が数多く出版されていますが、これは古典に書かれる先人の知恵が、現代人が抱える悩みの解決に向けたヒントになることが往々にしてあるからです。
言語化力は、積極的に外部からの情報を取り入れ、自身の中に溜めこんでこそ、はじめて基礎が完成するものであり、その土台があるからこそ、発せられる言葉に深みが増していきます。とはいえ「忙しいから」とインプットを後回しにしていては、いつまでも能力が実りません。その忙しさはどこから来るのか分析してみましょう。ある世論調査では、本を読まなくなった原因に「スマートフォンやゲームなどに多くの時間を費やしている」と答えた人が73%もいました。あなたもそのような生活になっていないでしょうか。
ただし、それは「時間がない」のではなく単に「時間をつくっていない」だけです。読書一つをとっても、習慣化する方法は多くあります。たとえば、トイレやお風呂のような生活空間にタブレットを置き、いつでも電子書籍を読めるようにしておく、家事の合間は音声読み上げアプリを使って聴くなど、現代のテクノロジーもうまく駆使しながら、目や耳から情報をインプットするための時間をつくる工夫をしましょう。そのとき、あなたが仮に集中できていなかったとしても、本当に必要としている情報や言葉は、自然と蓄積されていくはずです。
<ポイント>
●言語化力の向上に向けた練習を習慣化する。
●本や映画、音楽などに触れて情報をインプットする。
●時間がないのではなく、時間をつくらないだけ。
●テクノロジーも駆使して、時間をつくる工夫をしよう。
【監修】山口 謡司
大東文化大学名誉教授、平成国際大学新学部設置準備室学術顧問
1963年、長崎県に生まれる。フランス国立社会科学高等研究院大学院に学ぶ。ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経る。 著書にはベストセラー『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)をはじめ、『文豪の凄い語彙力』『一字違いの語彙力』『頭のいい子に育つ0歳からの親子で音読』『ステップアップ0歳音読』『いい子が生まれる 胎教音読』、監修に『頭のいい一級の語彙力集成』(以上、さくら舎)などがある。
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