(※写真はイメージです/PIXTA)

今回の事例の主役は、息子に経営を引き継いだ上田さん(70歳)です。社長の座を息子に譲り渡すと同時に、自身は取締役会長に。株式承継が有利になると聞き、そのタイミングで「役員退職金」を受け取りましたが、これが思わぬ悲劇を生むことに……。手続きはすべて正しく行っていたのに、いったい上田さんに何が起きたのでしょうか。さっそく見ていきましょう。

(※本記事で紹介する事例はフィクションです。)

 

上田さん(仮名)は現在70歳。関西を中心に居酒屋チェーンを展開しているT社の創業者であり、現在は取締役会長を務めている。今から遡ること10年、自身が定年を迎えた頃、事業承継を意識するようになり、後継者には息子を指名。株式承継は「10年以内」と設定し、令和4年に満を持して株式を贈与したが、待っていたのは最悪のシナリオだった。

還暦を迎え、「代表取締役社長」から「取締役会長」へ

上田さんは関西の大学を卒業し、最初は大手コンサル会社に就職。順調にサラリーマンとしてのキャリアを築いていたが、「好きなことをやりたい」という思いから30代前半で退職、妻とともに大阪で飲食店をはじめた。その後はサラリーマン時代に得た経営ノウハウを活かし、競合がひしめく飲食業界でも頭角を現すことができた。

 

そんな上田さんも50代に。T社は上田家で守っていってほしいという想いから20代後半の息子に「将来的な引き継ぎを前提としてT社に入ってくれないか」と打診し、なんとか承諾してもらうことができた。

 

息子の入社から数年後、上田さんは還暦を迎えた。ちょうどその頃、同世代の経営者が「会長」や「顧問」と呼ばれるようになっており、自身も「会長」への就任や退職について興味が湧いていた。

 

顧問税理士に相談すると「上田さんが会社から完全に引退してしまうと顧客や従業員の不安が高まるおそれがある。息子さんが独り立ちするまで、『取締役会長』として残られてはどうか」との助言があり、上田さんはこれを採用。「代表取締役社長」の座は息子に譲り、自身は「取締役会長」に就任することとした。

 

顧問税理士「役員退職金を支給すれば自社株の評価が下がる」

上田さんが代表取締役を下りる際、顧問税理士から「非常勤になり、役員報酬を大幅に減額すれば役員退職金を支給することができ、上田さんが保有している自社株の評価が大きく下がる。株式承継のチャンス」との話があった。

 

上田さんは「お金はいらない」と考えていたが、「株式承継の一助になるのであれば」という思いから役員退職金の受給を決断。自社株を引き受けてくれるという息子の気持ちも改めて確認した上で株式承継を実行する決意を固めた。

 

令和4年3月、T社の臨時株主総会が開催され、上田さんの役職は代表取締役社長から取締役会長に変更されることが決定した。同時に、上田さんに対する役員退職金の支給についても決議された。その後、T社は決算日である3月末までに役員退職金を支給し、5月下旬には決算、税務申告を完了させた。

 

同年6月中旬、顧問税理士が試算した自社株評価の結果を踏まえて息子と議論した結果、6月末に上田さんと息子は株式贈与契約を締結することに合意。翌年の令和5年3月、贈与税申告が完了。贈与税は予め試算していた通りであり、納税資金には困らなかった。これをもって株式承継が完結したはずだった。

 

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