(※写真はイメージです/PIXTA)

今回の事例の主役は、息子に経営を引き継いだ上田さん(70歳)です。社長の座を息子に譲り渡すと同時に、自身は取締役会長に。株式承継が有利になると聞き、そのタイミングで「役員退職金」を受け取りましたが、これが思わぬ悲劇を生むことに……。手続きはすべて正しく行っていたのに、いったい上田さんに何が起きたのでしょうか。さっそく見ていきましょう。

T社の税務調査が実施されることに

令和5年12月、税務署から顧問税理士あてに「T社の法人税、消費税の税務調査を実施したい」との連絡があった。その際、「3日間のうち1~2時間で構わないので、会長、社長にもお話を伺いたい」との申し出があった。

 

コンスタントに利益を出しているT社にとって税務調査は特別なことではなかった。また、税務署からの要望についても顧問税理士から「めずらしくない」と聞いていたため、特に気にしていなかった。

 

税務調査当日、税務署の方が3名で来社。T社は経理部長と顧問税理士のほか、都合をつけた上田さん、息子も午前中だけは同席することとした。

 

税務調査が始まると、会社沿革、商流、主要取引先などを聞かれ、上田さんが「いつも通りだな」と感じた矢先に初めて経験する質問があった。

 

「会長は今も変わらず忙しいのですか?」

 

上田さんは思いのまま答えた。

 

「ええ、おかげさまで。息子が独り立ちするまでは頑張るつもりです」

 

税務署「役員退職金の損金算入は認めない」

迎えた最終日。税務署が税務調査の総括を行った。それは上田さんにとって驚くべき内容だった。

 

「会長の勤務実態や経営の関与度合いを総合的に鑑み、実質的に退職しているとは言い難い。したがって、役員退職金の損金算入は認めない」

 

続けて税務署からは「取締役として残っていたとしても役員退職金を損金算入できる余地はあるが、役員としての地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることが損金算入の要件となる」との説明があった。

 

税務署から根拠資料として示されたのは上田さんを最終承認者とする「稟議書」と上田さんの会社に対する影響力がよく分かる「経営会議の議事録」、あとは代表取締役退任前後で勤務時間が一切変わっていないことが一目瞭然である「勤怠管理システムの履歴」。税務署は調査期間中に確認したこれらの事実を総合的に鑑み、「退職前後で上田さんの職務内容が激変したとはいえない」として、損金算入は認めないと判断した。

 

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