(※写真はイメージです/PIXTA)

今回の事例の主役は、息子に経営を引き継いだ上田さん(70歳)です。社長の座を息子に譲り渡すと同時に、自身は取締役会長に。株式承継が有利になると聞き、そのタイミングで「役員退職金」を受け取りましたが、これが思わぬ悲劇を生むことに……。手続きはすべて正しく行っていたのに、いったい上田さんに何が起きたのでしょうか。さっそく見ていきましょう。

贈与税の修正申告も必要に

税務調査から2か月。上田さんは顧問税理士と相談の上、税務署に対して何度も抗弁したものの税務署側の主張が覆ることはなかった。

 

最終的に「税務署との話し合いがこれ以上長引ければ会社に悪影響を及ぼす」と考えた上田さんは税務署の指摘を受け入れ、令和4年3月期の法人税の修正申告を行った。

 

さらに、役員退職金の損金算入が認められなかったことで自社株の評価が下がらず、息子が行った令和4年分の贈与税申告についても修正申告が必要になった。自社株の贈与自体をなかったことにはできないため、甘んじて贈与税の修正申告に応じた。結果的に息子はT社から多額の借入をし、納税資金に充てることとなった。

 

安易な役員退職金の支給はトラブルのもと

役員退職金は一度に多額の経費を計上できるため、法人税負担の軽減だけでなく、自社株評価の引き下げも期待できることから事業承継と組み合わせて検討されることが多い。

 

しかし、実質的に引退することができない経営者や本気で引退する気がない経営者に対して支給する役員退職金は、上田さんの事例のように損金算入することはできない。将来税務調査が行われて修正申告をすることになった場合には、法人税だけでなく自社株に対して課税された贈与税についても対応が必要となる。

 

では、上田さんと違って取締役として残らずに退任しておけば問題なかったのかというと、必ずしもそうではない。たとえ形式的に役員を退任していたとしても、実質的に退職していなければ上田さんと同じ結果になるリスクはある。

 

税務上、「実質的な退職」の明確な基準は明らかにされていないが、以下のような客観的事実が見受けられると役員退職金の損金性に疑義が生じると考えられる。

 

・現経営陣が最終的な経営判断を求めている

・常に経営会議に出席し、一定の発言をしている

・社内稟議の承認者になっている

・退職前後で勤務形態が変わらない

・退職前後で会社から受け取る報酬が激減していない

・社長室が残されている 

etc.

 

こういったことから、上田さんのような事態にならないよう役員退職金の支給については慎重に行うべきだといえる。

 

 

岡本 啓司

税理士法人プレアス 代表 税理士

 

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