(※写真はイメージです/PIXTA)

2023年家計調査「貯蓄・負債編」によれば、最も金融資産を保有する年代は70代以上で、全世代の金融資産合計の約27%を占め、金融資産のうち平均約18.7%を株式や投資信託などの有価証券で保有しています。インフレ対策として一部の資産を有価証券で保有するケースもあれば、資産承継を踏まえ多くの資産を有価証券で保有するケースもあるなど、保有状況は人によって異なりますが、もしそれらの資産を老後資金として活用することを想定されるなら、なんらかの対策をとっておかないと絵にかいた餅、使えない資産となる恐れも……。本記事ではAさんの事例とともに、老後の資産運用の落とし穴について、オフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。

タワマンで迷子

ところが、美食三昧の生活が影響したのかは不明ですが、Aさんは持病の糖尿病を療養ののち、昨年認知症を発症しました。

 

認知症を発症して以降、Aさんはタワマンでの暮らしが難しくなりました。まず、オートロックを前にすると、なにをしたらいいのかわからなくなり止まってしまいます。フロントのコンシェルジュの方に助けてもらいながら入退室をしていましたが、タワマン内で迷子になることも増えました。外出した妻を追いかけ、エレベーターを降りたのはいいものの、すっかり忘れてしまい、エントランスで座り込んでいることもありました。高層ゆえの転落も心配の種に。

 

娘一家と同居へ

心配する妻からの提案で、Aさんはひとまず長女一家のもとで同居することになりました。娘婿は穏やかな性格で、長女夫婦は困り果てたAさん夫婦を慮って快諾してくれたのです。

 

しかし、長女一家の家は4人で暮らす仕様で設計されており、ゲストルームなどはありません。幸い子どものために、と設けていた子ども部屋が1部屋未使用であったため、孫が小学生になるまで、との条件付きで子ども部屋を使わせてもらえることになりましたが、部屋は6畳。2人分の荷物や洋服は気を抜くとすぐに散乱し、Aさんと妻はありがたいといって肩を寄せ合いながらも、気が休まるところがありませんでした。

 

せめてAさんがどこか施設に入所できればいまの状況を改善できるのでは、と考えた妻は介護施設探しを始めました。ところが、すぐに資金が足りないことに気がつきます。妻は唖然としました「人並みよりいい暮らしができるはずなのに……」。

 

Aさん夫婦に負債はなくタワマン以外の金融資産もあります。年金収入は2人あわせて手取りで約月25万円です。それにもかかわらず一体どうしてなのでしょうか。

資産は十分なはずが、老後資金が足りないワケ

実は、Aさん夫婦の資産はほとんどが夫名義になっており、タワマンを除くと株式などの有価証券が資産の多くを占めており、預貯金は約200万円しかありませんでした。

 

公的年金は夫婦あわせて手取りで約月25万円でしたが、妻自身の年金は月5万円程度です。Aさんの施設入居後はAさんの介護施設費はAさん自身の年金で賄うとしても、妻の生活費は妻の年金のみでは不足します。毎月の生活費は少なく見積もっても5万円。預貯金からの取り崩しが必要となることが見込まれました。

 

ところが、Aさんが認知症を発症したいまとなっては、Aさん名義の有価証券を売却することはできず、預金も自由に引き出すことはできません。Aさんに追加の介護費が必要になった際には資金がないうえ、妻の生活費のためにAさん名義の口座から預金を活用するとしても、3年あまりで残高は尽きてしまうことが見込まれました。
 

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