いったいなぜ…「消費税増税」で経済効果は“破壊”
それはある意味で当然だ。マクロ経済学の教科書には「不況になったら、金融緩和と財政出動をしなさい」と書いてある。つまり、アベノミクスは特殊なことをしたのではなく、まさに教科書どおりの経済政策を採っただけだったのだ。
ところが、2014年4月に消費税率を5%から8%に引き上げた途端、事態は急変する。物価上昇率が、目標物価上昇率の2%から急速に転落して、1年足らずでデフレに舞い戻ってしまったのだ。アベノミクスは、消費税増税によって破壊されたのだ。
私はわけがわからなかった。金融緩和を継続するなかで消費税増税をするということは、アクセルを踏みながらブレーキを踏む運転に等しい。そんなことをしたら、クルマは正常な動きができなくなってしまう。経済学の常識に反する経済政策が採られた理由を、私は理解できないでいた。
しかし、最近になって当時の事情が明らかになってきた。じつは、安倍政権は、日銀総裁を黒田東彦氏に入れ替えただけではなかった。副総裁や審議委員を次々に金融緩和派に入れ替えていった。
なかでも、新任の岩田規久男副総裁は、異次元金融緩和に理論的バックボーンを与える重要な役割を果たしていた。岩田副総裁は、異次元金融緩和を殺してしまう消費税増税に明確に反対して、そのことを黒田東彦総裁にも進言したという。
ところが、黒田東彦総裁は、岩田副総裁の進言をこう斬り捨てたという。2%を実際の上昇率から差し引いている「消費税の引き上げは、景気動向に一切影響を与えない」
黒田総裁は、法学部出身ではあるものの、財務省時代にオックスフォード大学に留学して経済学を学ぶなど、経済の専門家だ。だから、アクセルとブレーキを同時に踏んではいけないことなど常識でわかっているはずだ。
にもかかわらず、消費税増税を簡単に容認してしまった。ここが財政緊縮派、すなわちザイム真理教の恐ろしいところなのだ。経済理論よりも、教団の教義が優先されてしまう。
結局、この消費税増税は経済に致命的な被害を与えた。翌2014年度の実質経済成長率はマイナス0.4%に転落し、その後も低成長が続くことになったからだ。
森永 卓郎
経済アナリスト
獨協大学経済学部 教授
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