株主還元を「重視する米国企業」と「ないがしろにしてきた日本企業」の違い【マクロストラテジストが解説】

株主還元を「重視する米国企業」と「ないがしろにしてきた日本企業」の違い【マクロストラテジストが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、フィデリティ投信株式会社が提供するマーケット情報『マーケットを語らず』から転載したものです。

株主還元に積極的な米国企業と消極的だった日本企業の違い

では、なぜ、米国企業は株主還元に積極的なのでしょうか。あるいは、なぜ、日本企業は少なくともこれまでは株主還元に積極的ではなかったのでしょうか。

 

さまざまな理由があるでしょう。うがった見方も含めると、たとえば、

 

1.米国企業の最高経営責任者(CEO)たちの報酬は、株価と連動しており、自らの報酬のために自社株買いなどの株主還元に積極的である。あるいは、目標とする利益を出せないときに自社株買いを使う。もしくは、持ち株を高値で売却したいがために自社株買いを使う。ほかにも、米国のなかで利益の規模とシェアが大きい巨大テクノロジー企業は、自社の工場を持たず、巨額の設備投資が不要でフリー・キャッシュフローが大きい。

 

2.日本企業は、米国企業とは対照的に、役員の現金報酬の割合が大きい(→今後、変わるでしょう)。日本企業は、バブル崩壊後の「トラウマ」で、いざというときのために資本を厚めにしている。あるいは、無借金経営が望ましい姿と考えている。

 

などです。

 

別途、会計を考えると、[図表3]で示すとおり、ROEが高い企業ほど、株主還元に積極的でないと、ROEは低下しやすいという事実があります。逆に言えば、ROEが低い企業は、株主還元に積極的でなくとも、ROEの低下は鈍くなります。

 

[図表6]株式還元実施前のROE水準と、株主還元によるROEの変化率(利益は一定と仮定)
[図表3]株式還元実施前のROE水準と、株主還元によるROEの変化率(利益は一定と仮定)

 

なぜなら、[図表4]で示すとおり、ROEが高い企業ほど、株主還元に積極的でないと、純資産は増加しやすいためです。逆に、ROEが低い企業は、株主還元に積極的でなくとも、純資産の増加は鈍くなります。

 

[図表7]株主還元実施前のROE水準と、株主還元による純資産の変化率(利益は一定と仮定)
[図表4]株主還元実施前のROE水準と、株主還元による純資産の変化率(利益は一定と仮定)

 

数値例を示すと、たとえば、利益水準が「10」であり、純資産は「5」である「ROE=200%」の企業が利益の半分を内部留保・純資産としてバランスシートに積み上げると、次期には(利益は一定と仮定すると)「10/10」で「ROE=100%」に低下します。「100%ポイントの低下」です(→「ROE200%は極端な数値」と思われるかもしれませんが、米国には黒字企業でも、積極的な株主還元のために純資産がマイナス=債務超過の企業もあります)。

 

他方で、利益水準が「20」であり、純資産は「200」である「ROE=10%」の企業が利益の半分を内部留保・純資産としてバランスシートに積み上げると、次期には(利益は一定と仮定すると)「20/210」で「ROE=9.5%」に低下します。「0.5%ポイントの低下」です。

 

前述のとおり、米国企業は株主還元に積極的であり、日本企業は少なくともこれまでは株主還元に積極的ではなかった理由はさまざまにあると思われますが、以上は、

 

1.高ROEの米国企業は(あるいは、集合体としての米国企業)は、ROEの水準を維持するために株主還元に積極的になるインセンティブが強い

 

2.低ROEの日本企業は(あるいは、集合体としての日本企業)は、ROEの水準を維持するために株主還元に積極的になるインセンティブが弱い

 

と言えそうです。

 

次ページ日本企業のROEは今後どうなる

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