電話越しの父の声、元気そうで安堵したが…
佐藤さんと妹は、折を見て父親に連絡を入れていたが、電話の向こうの父親は、受け答えもシッカリしており、それなりに規律のある生活を送っているように感じられた。
「お兄ちゃん、お父さんに連絡してる?」
「うん。たまに電話している。元気そうだよな」
佐藤さんきょうだいは、電話越しの父親とのやり取りに安堵し、そのまましばらく経過した。
「お父さんの顔を見に行かなくていいの?」
電話だけでなく、父親の顔を見るように促したのは、佐藤さんの妻だった。
「そうだな…」
佐藤さん夫婦は、久しぶりに実家を訪問することにした。
「あれ? なんだか様子が違う…」
前庭の草花は伸び放題となっており、芝生も雑草に覆われている。
怪訝に思いながら、門柱のインターフォンを鳴らすが、返事がない。
佐藤さん夫婦は庭を通って玄関ドアの前に立つと、異常な臭気が漂ってきた。
「なんだこの匂いは…!」
玄関ドアは施錠されておらず、扉を開けると、室内の床一面に数えきれないゴミが散乱していた。開かなくなっているリビングのドアの隙間から室内を覗くと、父親がソファでぐったりしているのが見える。エアコンは効いているようだった。
「お父さん、お父さん? 大丈夫ですか?」
「お父さん、一体どうしたの!」
佐藤さん夫婦がかわるがわる声をかけると、父親は、
「突然なにしに来たんだ、帰れ!」
と大声をあげた。温厚だった父親の変貌ぶりに、佐藤さん夫婦は驚愕した。
「お父さん、もしかして認知症かしら…?」
「まさか、電話ではずっと普通だったぞ?」
佐藤さん夫婦が小声で会話を交わしていると、それに気づいた父親は再び大声をあげた。
「だめだ、このままにはしておけない。すぐに施設を探さないと…」
パートナーに先立たれたことで孤独を募らせ、自ら社会とのかかわりから遠ざかってしまう高齢者は少なくない。
内閣府『令和5年版高齢社会白』によると、「65歳以上の住居形態」で最も多いのが「持ち家・一戸建て」で75.6%。「持ち家・分譲マンション等」11.8%、「賃貸住宅(マンション等)」8.4%、「賃貸住宅(戸建て)」2.0%と続き、老人ホーム含む「高齢者向け住宅・施設」は1.1%。
65歳以上人口は3,500万人といわれていることから、全国で40万人近い高齢者が老人ホーム等で暮らしていることになる。
佐藤さん夫婦は、妹と連絡を取り合いながら、父親を入居させる老人ホームを大急ぎで探し回っている。
[参考資料]
厚生労働省『令和4年人口動態』
内閣府『令和5年版高齢社会白書』
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