「代理人カード」ではどうか
では、代理人カードはどうでしょうか?
代理人カードは、本人が手続きをして、代理人カードを受け取り、それを代理人に渡します。どの金融機関も本人でないと手続きはできないようになっています。親が元気なうちに、カードを作っておいてもらうのはよいと思います。
親が入院してしまっても、代理人カードを利用して必要なお金を引き出すことができます。入院費などの振り込みが、親と遠く離れたところに住んでいても、可能になります。
代理人カードは、利便性はありますが、本人のキャッシュカードと同じように、紛失や破損、磁気不良などが起きて、再発行の手続きが必要になった場合には、本人が窓口に行かなければなりません。その際に親の認知症が進んでいれば、本人確認ができないので、再発行はできません。
金融機関によっては、「代理人カード」とは別に、代理人指名」というシステムがあるところもあります。本人の判断能力のあるうちに出金の代理人をあらかじめ指名しておくことで、指名された家族は窓口で出金ができるような仕組みです。
引き出せる額には制限がありますが、代理人指名制度を利用することにより、代理人が取引を行うことができます。ただし、本人の判断能力が著しく低下してしまった場合には、代理人での取引もできなくなります。
2021年に全国銀行協会が取引の指針の見直しを発表しました(「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方」)。
内容を簡単に要約すると、
・認知症などの高齢者が行う金融取引は、成年見制度を利用してもらうことが基本
・成年後見の申し立ての手続きが完了するまでの間など、一定の要件を満たした場合は、「本人の利益に適合することが明らかである場合に限り」家族による預金の引き出しを例外的に認める
・認知症になる前であれば、本人が支払っていたであろう本人の医療費、介護費用、家賃や介護施設利用料、公共料金等の支払いについて、請求書などの支払いの根拠となるものを提示してもらって、対応する
というものです。
家族の困りごとが、少しは減ると思われるこの指針が、全国の銀行に広がっていくのには、まだまだ時間がかかると思います。
安田 まゆみ
ファイナンシャルプランナー
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