戦争をくぐり抜けた世代は価値観が異なる
大ざっぱな高齢者マーケティングが失敗を招いたのであれば、細かく調査を行って、そこから需要やターゲット層を見極めればよかったのではと思うだろう。だが、高齢者の場合、それが実に難しい。2000年代に入ると、インターネット調査が主流となり、ネットにアクセスできる高齢者が少ない状況では、調査自体がままならないからだ。
平成中期となれば、2024年に比べてインターネットを利用している高齢者はごく少数派である。そうした環境もあって、調査によって見いだされるはずの〝売れる根拠〞がないまま、突き進んでしまった。これも敗退原因の一つだ。
さらに、もう一つ失敗の原因を挙げるとするならば、「時代が少し早かった」こともあるだろう。アクティブシニアマーケティングが活発化した平成中期、期待された団塊の世代はまだ現役であり、彼らがシニアになるまでには、10年を待たなければならなかった。
戦後生まれの「団塊の世代」とそれ以前の「戦中・戦前生まれの世代」とでは、価値観が全く異なる。
後者は、幼少期に戦争をくぐり抜けてきた世代であり、戦後に生まれ、中高生の時にザ・ビートルズを聴いて育ち、20代でマクドナルドのハンバーガーを食べてきた団塊の世代とは、生き方も考え方も全く異なる。
団塊の世代は、基本的に新しいものが好きであり、新発売や日本初、世界初の商品やサービスに飛びつきやすく、その点で消費意欲がワンランク上だ。
一方、戦中・戦前の世代は対照的なほど堅実だ。出費は控え、つつましく生活することを美徳とする、いってみれば日本の古くからの高齢者像を、そのまま引き継いだタイプだ。
平成の高齢者マーケティングは、蓋を開けてみれば、主役の大部分がそうした古風な高齢者だった。全体的に見れば、消費は活発でなく、当然「アクティブ」ではない。この読み違えも敗北の原因の一つだった。
中高年を〝切り捨てよ〟企業の誤った決断
平成のアクティブマーケティングの失敗は、マーケティング業界、広告業界、さらには企業にとってダメージとなり、トラウマとして以後のビジネスでも引きずることとなった。
ついてしまったイメージは「高齢者は消費しない」というレッテルだ。基本的にマーケティングの対象から外す――。それが多くの企業が下した決断だった。
その象徴的な出来事がある。2020年3月、ビデオリサーチが全国で本格的に個人視聴率の提供をスタートさせた。そのデータを基に、主要テレビ各局が地上波の広告枠を販売する際の指標として「コア視聴率」の採用を始めたことだ。