(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者が終の棲家とする老人ホーム。しかし、費用面ばかり見て施設を選ぶと、本人に大きな不満が生じるばかりか、親族が大変な思いをすることもあるようだ。実情を見ていく。

老人ホーム入居にかかる費用とは?

老人ホーム入居にかかる費用として、まずは入居一時金が必要になる。老人ホームの家賃は「入居一時金方式」と「月払い方式」があり、前者は一定期間分の家賃をまとめて前払いし、後者は毎月定額の家賃を徴収される。前者を採用するホームのほうが多く、前払いの分、毎月かかる費用を抑えられるメリットもある。

 

まとまった費用が出せなければ入居は叶わない。そのため、月払い方式を用意している施設もあるが、一時金の費用はかからない分、毎月の費用は高くなる。

 

また入居一時金は、5〜15年程度の償却期間があるのが一般的で、償却期間が終わる前にホームを退去した場合は、未償却分の入居一時金を返還してもらうことができる。通常は初期償却分として、入居と同時に償却される分があり、この部分は基本的に戻ってこない。

 

そして、入居後に毎月支払う月額利用料だ。内訳はホームによって異なるが「家賃」「食費」「水道」「光熱費」「管理費」「介護費」といったのが主な項目だ。また、ホームによっては日用品代やおむつ代など、日常生活費として個人で支払う費用がプラスされることもある。費用に含まれるものと含まれないものを、しっかり確認しておくことが重要だ。

 

「姑の年金額は月12万円。自宅の売却金額を含めた預貯金は2,500万円程度。たくさん資料を集め、みんなで手分けして費用面の条件が合うところを探しまくりました」

 

ちなみに、厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況和』によると、厚生年金保険(第1号)の老齢給付の受給者の平均年金月額は、併給の老齢基礎年金を含めて14万4,982円。65歳以上の受給権者の平均は、男性が16万7,388円、女性が10万9,165円。また国民年金の老齢年金受給者の平均年金月額は5万6,428円となっている。元会社員であれば月17万円、手取りにすると月14万~15万円程度の年金が得られるようだ。

 

民間企業が運営する老人ホームの場合、月額費用の相場は20万~30万円と高額で、なかなか年金で賄えるところがない。ところが、奇跡的に予算内で収まる施設を発見。最初は泣いていやがった姑だったが、なんとか説得して納得してもらい、入所が決まった。

 

これで一安心と思ったのだが、現実は甘くなかった。

「帰ってきちゃった」とテヘペロ

土曜日の夜、佐藤さん夫婦が自宅でそれぞれくつろいでいると、インターフォンが鳴った。

 

思わず夫婦で顔を見合わせ、恐る恐るインターフォンのカメラを見ると、そこには姑が映っていた。

 

「ぺろりと舌を出して〈エヘッ、帰ってきちゃった〉と…。もう絶句です」

 

株式会社Speee/「ケアスル 介護」による『介護施設の転居に関するアンケート調査』によると、入居した施設が「1施設目」との回答が61.6%。逆にいうと、老人ホーム入居者の4割が転居をしていることになる。

 

転居経験者に聞いた理由の最多は「特養などに入所するため、一時的な入居だった」で33.3%だが、以降は「介護スタッフ・施設職員への不満」「介護サービスの質が低い」「医療・看護体制が不十分」「介護度や病気が重くなり退去を命じられた」といった不満が続く。

 

「食事がまずく、スタッフが不親切だというのです。金額面だけで選んだら、結局こんなことに…」

 

義妹夫婦のところには戻れないため、とりあえず佐藤さんの自宅にいてもらい、新しいホーム探しが続いている。

 

「本当に疲れました…」

 

だんだん遠慮がなくなってきた姑に、佐藤さん夫婦も疲弊しているようだ。

 

老人ホームを安さだけで選んでしまうと、思い描いていたサービスが受けられず、後悔の原因になることもある。費用だけでなく、入居後の生活もシッカリ考慮したうえで検討することが重要だといえる。

 

[参考資料]

株式会社Speee『介護施設の転居に関するアンケート調査』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況和』

 

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