2030年、日本の「認知症患者」は523万人へ。フランスは抗認知症薬が2018年から「保険適用外」に。令和の認知症との向き合い方【元参議院産業医が解説】

2030年、日本の「認知症患者」は523万人へ。フランスは抗認知症薬が2018年から「保険適用外」に。令和の認知症との向き合い方【元参議院産業医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

厚生労働省は2030年までに認知症患者は523万人になると推計しています。本記事では、参議院事務局産業医としての経験を持つ株式会社フェアワーク代表取締役会⻑・吉田健一医師が、産業医の目線から認知症との向き合い方について解説します。

カリスマ経営者の退任理由は「治療可能な認知症」!?2030年に認知症患者523万人、介護離職だけでない認知症の課題

厚生労働省研究班が5月8日に示した調査で、2030年までに認知症患者は推計523万人に達し、高齢者の14%を占めるという結果が公表されました。認知症の予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の患者数も30年に593万人になるともこの調査で言われています。

 

認知症を巡って、数年前のある大手企業の事例をご紹介します。この企業で高齢のカリスマ役員が退任した際、週刊誌に「言動が荒れている」「稚拙さが目立つ判断」などと報道されていました。ところが、この週刊誌の記事には、この役員が「ある病であった」との記載もあり、病名として「慢性硬膜下血腫」とはっきり書かれていました。

 

慢性硬膜下血腫は「治療可能な認知症」ともいわれています。脳外科医や精神科医・神経内科医など、脳神経系を専門とする医師であれば「言動が荒れてきた」「稚拙さが目立つ判断」などの症状から、この病気の影響があることはすぐに推測がつきます。

 

慢性硬膜下血腫の代表的な治療は、頭蓋骨に小さな穴を開けて血の塊を少しずつ抜いていく、という処置をします。それにより脳の圧力が正常に戻り、認知能力も以前の状態に回復する、というわけです。

 

実際、この大手企業のカリスマ役員も治療を経て「認知能力が以前のように戻った」と同週刊誌に記載されています。

 

この事例のように、高齢の役員や従業員の認知能力に変化があった際に、産業医がお役に立てるかどうかは状況によります。ですが、医療の観点から解釈して本人に助言したり、周囲や家族に説明できる専門家とのリレーションがあったりした方が、経営のリスクヘッジになる、という点で望ましいでしょう。

職場の認知症対策が求められる時代へ

これまで産業医の役割として、「職場の労働災害への対応」や、かつて成人病と呼ばれてた「生活習慣病対策」が主に求められていました。

 

一方で、少子高齢化とそれに伴う労働人口の減少により、日本の高齢者は今後「75歳くらいまでの就労」が標準となる時代がおとずれることが見通されています。さらに、昨今は人生100年時代を迎え「長く健康に働くこと」や「幸福に社会参加すること」の価値が見出されています。

 

こうした背景から職場の認知症対策について真剣に議論される日が、そう遠くない将来にやってくるのではないか?と感じています。

 

認知症患者数が増えることを見据えて「親世代の介護をしながら働く“ビジネスケアラー”の支援を手厚くする」という流れが、大企業中心にすでに始まっています。役員や従業員本人の認知症対策については、議論はまだまだこれからという段階だと思います。

 

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