「出社はしているけど、身体の調子が悪い」状態が招く労働生産性の損失は19.2兆円
私はこれまでに、参議院事務局をはじめ中央省庁や上場企業を中心とする50団体以上の産業医を務めました。
これらの経験のなかで、病院に行く時間がなく「会社に出社しているものの、体調不良を我慢しながら働いている」「仕事を優先し、調子が悪い症状を放置している」という社会人を数多く見てきました。この状態をプレゼンティーイズムといいます。(参考:東京⼤学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット健康経営評価指標の策定・活⽤事業成果報告書2016年2⽉)
プレゼンティーイズムによる経済的損失は、国内で年間19.2兆円、労働者1人当たりに換算すると年間30万円にも上るといわれています。
会社員は「上級管理職への昇進」と「更年期障害の発症」のタイミングが一致
「プレゼティーイズム」の例としては頭痛・肩や腰の痛み・花粉症・眼精疲労・睡眠不足・睡眠時無呼吸症候群のほか、女性の身体特有の健康課題があります。
たとえば、PMS(月経前症候群)、月経困難症、更年期障害等が挙げられます。特に更年期障害は中年期以降に顕在化することが多く、企業においては上級管理職や役員に昇進・昇格する年代の女性が、更年期障害の発症時期(45〜55歳)とおおよそ一致すると考えられます。
女性の身体特有の疾患は、たとえ相手が産業医であっても当事者にとって対面では相談しにくいものです。さらに、症状が重くなれば病院にさえも行きづらくなります。体調不良を抱えつつ、我慢したまま就労している方は、想像以上に多いのではないでしょうか。
2023年6月に政府会議で決定された「女性版骨太の方針2023」では、東京証券取引所の最上位「プライム市場」に上場する企業の役員について、2025年を目途に女性を1人以上選任するよう努め、2030年までに女性の比率を30%以上にすることを目指すとしています。
産業医の見地から、私はこの数値目標の達成には企業側がリードし、女性の身体特有の健康課題への啓発や働きかけが不可欠だと考えています。
体調不良で十分な能力が発揮できなければ、生産性の低下、業務の遅延、ミスなどにもつながりかねません。女性の身体特有の月経随伴症状(月経前から月経中に起こる下腹部痛や倦怠感などの身体症状や、精神症状)による労働生産性の損失(労働の機会が奪われることによる賃金の損失)だけで4,911億円、通院や市販薬購入コストを併せると総計6,828億円、という試算があります。女性の身体特有の健康課題の解決は、女性が活躍する社会を目指す面でも、企業の労働生産性の損失面からも無視できないのです。
(参考:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/josei-kenkou.pdf)
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