今回は、中国企業との交渉の前に、準備すべきことを見ていきます。※本連載は、世界4カ国で20年もの経営経験をもつ平沢健一氏の著書『アジアビジネス成功への道』(産業能率大学出版部)の中から一部を抜粋し、中国・インドでの交渉術や、勝ち抜くためのノウハウを紹介します。

「素人になったつもり」で相手企業の情報を探る

今回は、実際に交渉に入る前に重要となるポイントをいくつか挙げておきます。

 

①事前の情報収集と調査研究

 

まず、良い関係づくりのため、客観情勢をよく調べ、記録し、作戦を練ります。中国に関する情報、ヒエラルキー(上下層関係に整序されたピラミッド型の秩序ないし組織)を重んじ、よく研究することです。

 

特に国や国営企業、さらに民営企業のあり方、改革の進め方は昨今の中国のビジネスのやり方を知る上で大変参考になります。

 

素人になったつもりで、交渉の各段階の経験者、交渉している企業や関連する政府部門を遠慮なく訪ねてみましょう。人に聞くことを恥だと思わないことです。すると、こうした人たちは情報をたくさん提供してくれます。

 

交渉相手のライバル社に聞くことも有効です。相手をけなしたいという気持ちをうまく使うことです。

 

②相手との距離を縮める

 

この場合も「性悪説」を腹に収めて、相手の不信感を払拭しておきましょう。中国側がくつろいで交渉に入れるよう仕掛けをしておくことです。

 

③重要な人脈づくり

 

中国における人脈づくりは極めて重要で、根気よく時間をかけて行います。人脈を築くような関係づくりには最低3年はかかると思った方がよいでしょう。その人が入ってきたり、一緒の写真を見せられたら「オッ!」と言うくらいの人が好まれます。ただ後で失脚するようなケースがありますから、事前に詳細な調査が肝要です。

 

日本人のトップで中国人と1~2回宴席で酒をくみ交わし、宴会上手な中国人に「老朋友(ラオ・ポンヨウ=親友)」と呼ばれ舞い上がっている人がいます。こうした人の多くが相手の思うつぼにはまって、その後失敗してしまった例を多く見ました。

宴席に「ビジネスの話」は持ち込まない

④交渉場所

 

会合の場所は大いに配慮しましょう。テーマが深刻で怒鳴り合う場面が想定される時は、社内の会議室は避けます。また宴席にはビジネスを持ち込まないことです。中国人のように、お互いの性格や実力を値踏みし合うのがこうした席だと割り切って対応します。宴席を交渉の場にしてはいけません。

 

⑤明確な戦略の準備

 

交渉のとらえ方は日本人や欧米人と全く違います。交渉前には明確な戦略――交渉のルールや目標、複数の譲歩案を用意しておきます。タイムリミットは最初から話し合って合意しておくとよいでしょう。

 

⑥交渉の時間感覚

 

中国での滞在スケジュールは大まかに伝えておいて構いませんが、1日程度短く伝えておきます。最後の土壇場で一気に勝負をかけるケースも想定しておかなければなりません。また、「中国の大市場と引き換えに技術をよこせ」が中国の方針ですから、技術情報をどこまで、いつまでに知らせるか事前に決めておくことも大切なことです。

本連載は、2016年6月30日刊行の書籍『アジアビジネス成功への道』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

アジアビジネス成功への道

アジアビジネス成功への道

平沢 健一

産業能率大学出版部

アジアの14ヵ国で成功を収めた14人の経営者と、世界4カ国20年の経営経験をもつ筆者が、グローバルビジネスの中心となってきたアジアビジネスでの成功の秘訣を語る。アジアビジネスでの苦労や成功体験はもちろん、アジア各国で…

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