今回は、残された家族を守るための成年後見制度の活用方法を見ていきます。※本連載は、医療問題アナリストで歯科医師の吉野敏明氏、経済評論家で公認会計士・税理士の田中肇氏、一般社団法人包括安心サポート研究所の代表理事・大和泰子氏の共著、『本当に正しい医療が、終活を変える 』(かざひの文庫)の中から一部を抜粋し、幸せな人生を終える人と、そうでない人の違いはどこにあるのかを探っていきます。

自分の代わりに財産の管理をしてもらう「成年後見制度」

前回の続きです。独り残される奥様のお金の管理や緊急な入院時の手続きに対する対策として、『成年後見制度』というものがあります。

 

成年後見制度とは、精神上の障害 (知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が十分でない方が不利益を被らないように、家庭裁判所に申し立てをして、その方を援助してくれる人を付けてもらう制度です。

 

例えば、一人暮らしの老人が悪質な訪問販売員に騙されて高額な商品を買わされてしまうなどといった事例がよくありますよね。このような場合でも成年後見制度を使い、被害を防ぐことができます。

 

成年後見制度には二種類あり、任意後見制度と法定後見制度を使う方法があります。

 

ごく簡単に説明すると、判断能力が衰える前には任意後見制度が使えますが、判断能力が衰えた後では法定後見制度しか使えません。この場合は手続きが複雑で時間がかかり、家庭裁判所に成年後見の申し立てをし、審判までの期間は事案にもよりますが、2か月程度かかります。

 

任意後見制度は、意志がコントロールできる人でないと契約できませんから、Aさんは任意後見契約をすることができませんでした。

 

もう一つの方法として、信託を利用する方法があります。信託とは、財産を持っている人(委託者といいます)が、信託行為(遺言・信託契約など)によって、信頼できる人(受託者といいます)に対して現金・不動産・株式等有価証券などの財産を移転し、一定の目的(信託目的)に沿って誰か(受益者)のためにその財産(信託財産)を管理・処分することいいます。

 

そのなかでも家族信託とは、「個人の財産管理・資産承継のための信託」の仕組みであり、さらにそのなかでも福祉型信託とは、「高齢者や障害者等の生活支援のための信託」と定義され、成年後見制度を補完するため、あるいは成年後見制度では対応できない部分を補うための財産管理の仕組みの制度です。

法定代理人は自分で指定できない

Aさんは、福祉型信託を利用して受益者をAさんご自身とし、指定した受託者から生活費の給付を受ける目的で契約することにしました。

 

ところが、この契約する予定だった矢先に、夫Aさんの体調が急変して入院していました。そして大変残念なことに、Aさんはそのまま帰らぬ人となり、妻のBさんは1人残されてしまいました。

 

その後、残された妻のBさんには、家庭裁判所が指定した法定後見人がつきました。法定後見人は指定できないので、AさんともBさんとも全く面識のない人が、財産の管理や施設入居等の契約を行うことになります。

 

Bさんの生い立ち、好み、性質を知らない法定後見人に、今後の生活する場所や重要な契約を任せることになり、これからの生活はBさんの意志に反したものになってしまう可能性もあります。

 

そして、Aさんは遺言を書いていなかったので、相続財産がBさんに全部渡らず、1/3はAさんの兄弟に渡りました。財産分割のため長年住んでいた愛着のある自宅も売却せざるを得ませんでした。

 

Bさんは、生まれ育った土地から遠い地方の施設に入ったそうです。言語の伝達障害はありましたが、意識ははっきりしていたので、意思に反することはとても気持ちが苦しく辛かったのではないかと思うと、我々もとても悲しくなりました。

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2016年9月22日刊行の書籍『本当に正しい医療が、終活を変える』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

本当に正しい医療が、終活を変える

本当に正しい医療が、終活を変える

吉野 敏明・田中 肇・大和 泰子

かざひの文庫

本書は終活のための本です。よい終活とは、遺書を書くことでも、墓石を選ぶ事でも、葬儀会社を選ぶことでもありません。保険を組み合わせることでもありません。健康な体と心をもち、心が最期の瞬間まで成長する。これによって…

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