ワンマン経営であるほど、早く後継者をたてるべき
前回に引き続き、3人の子供がいる創業者Oさんのケースを見ていきましょう。
どんなに元気な人であっても、亡くならない方はいません。このように、ワンマン経営であればあるほど、後継者を早くたてることが重要です。
本書籍の前章で示している、幸せの6つの条件を検証してみましょう。6つの条件とは、①家庭、②職業と経済、③社会と文化面、④精神と倫理面、⑤教養と倫理面、そして⑥心身の健康でした。
Oさんの生前は①に問題はありませんでした。3人仲良くしていたのです。収入も安定し、人間と社会の接点である仕事も順調でしたから②も③も問題ありませんでした。
さて、ここでみなさんに中学の理科で習った、『ドべネックの桶』を思い出してもらいましょう。人間に必要な栄養素には、タンパク質、炭水化物、脂肪があります。しかし、これらだけを過不足なくとっていても、人間は死んでしまいます。そのほかにも、人間にはカルシウムやマグネシウムなど、必要な微量栄養素が必要なのです。
これらはバランスよく全て必要なだけ摂取していないと、必ず健康を害します。最悪の場合、死亡することすらあります。
つまり、この桶の板が一枚でも低いところにあると、その一番低いレベルで健康を害すのです。他の板がどんなに高くでもダメ。一番低いところで健康が決まってしまいます(以下図表参照)。
同様に、幸せの6つの要素のどれか一つが欠けていても、幸せにはなりません。我々が今アドバイスをするとすれば、Oさんには④と⑤と⑥に問題がありました。
創業者一族が企業を独占すれば、必ず「もめ事」が…
まず、④精神と倫理面です。企業とは誰のものでしょう? もちろん、創業者一族は、企業にとっての創始者です。日本でいえば、創業者一族は天皇と皇族です。そして、経営者は内閣であり、最高責任者は内閣総理大臣です。
我々は、医療従事者の経営のコンサルをしています。そこで、常にアドバイスをするのは、「病院・医院(会社)を創業者一族のものにしてはならない。働く従業員があっての病院・医院である」ということです。
創業者一族が企業を独占すると、必ずもめ事になり、どんな巨大企業でも、一見安定してみえますが一瞬にして倒産してしまいます。
良い例が、ダイエーが創業者の中内一族の内紛で倒産したのは有名ですし、一方ホンダは、創業者の本田宗一郎が絶対に後継者には、本田家の血を入れない、と宣言したのも有名です。
近い例では、大塚家具の親子の御家騒動、出光の創業者一族と経営者の昭和シェル石油との合併騒動もそうです。地方の盟主といわれた岡山県の株式会社林原がそうです。2011年に経営破綻した林原も典型的な“同族経営の失敗”と見なされたケースです。
同社は岡山市を拠点に、医薬・食品原料を開発している1833年創業のバイオ企業で、インターフェロンなど林原が世界で初めて量産に成功した国際的な企業でしたが、兄弟の内紛で2011年に倒産してしまいました。
一方、同族経営で長く行ってきたサントリーが、経営改革として株式会社に転じ、しかもローソンの経営トップを12年間務めた新浪剛史に決まったと発表されたことは激震でした。サントリーが創業家以外から社長を迎えるのは、1899年に鳥井商店として創業して以来、初めてのことです。社長の外部登用には、社内に新風を吹きこみ、世界戦略を加速する必要からでした。
同じような例として、2009年に初めて外部から経営者を招いたカルビーなど、近年になって同族経営から脱却を図る企業は目立ちます。
どんな小さな中小・零細企業であっても、現代の国際化した社会のルールでは、同族経営はいずれ破綻することがわかっています。
経営コンサルの立場から言わせていただくと、倒産の主な理由はそのほとんどが内部要因であり、とくに中小企業では為替の変動やリーマンショックなどの国際情勢の変化、あるいは大規模災害などの外部要因による倒産例は、ほとんどあげられません。
この話は次回に続きます。