(写真はイメージです/PIXTA)

令和5年版高齢社会白書によると、65歳以上の単身高齢者は670万人(男性15.0%、女性22.1%)に達し、今後も更に増加する見込みである。単身高齢者の増加は、孤独死、消費者トラブル、認知症の進行など多くの問題を抱える。認知症高齢者の増加が見込まれるなかでは、介護職の人材不足に加えて、高齢者の人権擁護を担う後見人の担い手不足も深刻だ。政府では、第二期成年後見制度利用促進基本計画のなかで、多様な担い手の確保・育成を進めており、今回はそのなかで市民後見人についてニッセイ基礎研究所の鈴木寧氏の解説です。

1―はじめに

令和5年版高齢社会白書によると、65歳以上の単身高齢者は670万人(男性15.0%、女性22.1%)に達し、今後も更に増加する見込みである。単身高齢者の増加は、孤独死、消費者トラブル、認知症の進行など多くの問題を抱える。認知症高齢者の増加が見込まれるなかでは、介護職の人材不足に加えて、高齢者の人権擁護を担う後見人の担い手不足も深刻だ。

 

政府では、第二期成年後見制度利用促進基本計画のなかで、多様な担い手の確保・育成を進めており、今回はそのなかで市民後見人について紹介をしたい。

2―成年後見制度をめぐる現状と課題

市民後見人について説明をするにあたり、先ずはその活動の前提となる成年後見制度における現状について簡単に振り返ってみよう。

 

1|成年後見制度とは

成年後見制度は、認知症、知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が十分ではない人を家庭裁判所によって選任された後見人が、被後見人本人(以下、本人)の財産管理や身上保護を通じて本人の権利擁護をするための制度として2000年4月の民法改正により発足した。

 

成年後見制度のなかでも、本人が未だ判断能力を有している間に自ら将来、判断能力が不十分になった場合に備えて後見人及び支援内容を契約する「任意後見」と、家庭裁判所が後見人を指名する「法定後見」に分けられ、「法定後見」は更に、本人の認知能力に応じて、「後見」「補佐」「補助」の3類型に分けられている。

 

成年後見人の役割は、「本人の意思を尊重し、かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、必要な代理行為を行うととともに、本人の財産を適正に管理していくこと*1」とされており、具体的には、(1)本人のために診療・介護・福祉サービスなどの利用契約を結ぶこと(身上保護)、(2)本人の預貯金の出し入れや不動産の管理などを行うこと(財産管理)、が主な仕事となっている。

 

*1:最高裁判所 後見ポータルサイトhttps://www.courts.go.jp/saiban/koukenp/koukenp1/index.html

 

2|成年後見制度の利用状況

続いて、現在の成年後見制度の利用状況について確認してみよう。

 

(1) 利用者数

2023年12月末時点での、成年後見制度(成年後見・補佐・補助・任意後見)の利用者数は249,484人であり、2014年の184,670人と比べると約4割の増加となっている(図表1)。しかし、厚生労働省では2020年の認知症高齢者数だけでも602万人*2と推計しており、この人数と比較すると、利用者数の割合はわずかその4%程度の水準でしかない。更に認知症には、その予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の方もほぼ同程度の人数がいることが推定され、これを踏まえると制度が十分に活用されていると言うには程遠い状況だ。

 

【図表1】
【図表1】

 

また、利用者数の内訳をみると、成年後見が178,759人(制度利用者数全体の71.7%)で、補佐が52,089人(同20.9%)、補助が15,863人(同6.4%)、任意後見が2,773人(同1.1%)と続く。利用者数の大半が成年後見を利用している状況を見ると、現在の成年後見制度の利用者は、預貯金等の管理・解約、不動産の処分、介護保険契約手続きなどの必要に迫られ、問題が深刻化して初めて成年後見を利用した人が多く、軽度認知障害のような成年後見まではいかなくとも、財産管理に困難をきたしている人が、補佐あるいは補助の申請をされないまま日常生活に不便を強いられている可能性も伺える。

 

*2:厚生労働省 認知症の人の将来推計について https://www.mhlw.go.jp/content/001061139.pdf

 

(2) 後見人の選任状況

続いて、成年後見人と本人の関係を見てみると、親族(配偶者、親、子、兄弟姉妹、その他親族)が後見人として選任されているのは、18.1%であり、市民後見人はわずか0.8%となっている(図表2)。

 

【図表2】
【図表2】

 

成年後見制度発足時の2000年には親族の割合が91%、専門職は8%であったが、年々親族が選任される割合が減り、代わりに司法書士29.4%、弁護士21.9%、社会福祉士15.1%等の専門職が選任される割合が増えることとなった。その背景には、当初、親族後見人による財産横領などの不正事例が多く発生し、家庭裁判所が親族を後見人に選任することに消極的になったことがあげられる。加えて、高齢者の単身世帯や身寄りのない高齢者が増加していることも要因のひとつとなっている。これは、法定後見の申立人*3が、身近な親族がいないため、市区町村長による申立が全体の約4分の1まで達していることからもわかる。

 

以上のように、高齢者、とりわけ単身高齢者世帯の増加の一方で、成年後見制度の利用者数が伸び悩む状況のなかで、政府は成年後見制度の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、2018年に成年後見制度利用促進会議及び成年後見制度利用促進専門家会議を厚生労働省に設置し、現在、第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年度~令和8年度)を進めている。

 

同計画のなかでは、優先して取り組む事項として、(1)任意後見制度の利用促進、(2)担い手の確保・育成などの推進、(3)市町村長申立ての適切な実施と成年後見制度利用支援事業の推進、(4)地方公共団体による行政計画等の策定、(5)都道府県の機能強化による権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりの推進、の5点を挙げており、市民後見人については、(2)のなかで、専門職後見、法人後見と合わせて、多様な後見事務等の担い手として、期待されている。

 

3 成年後見の申立てができるのは、本人、配偶者、4親等以内の親族、成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人、市区町村長、検察官となっている。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2024年5月28日に公開したレポートを転載したものです。

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