3――市民後見人とは
1|市民後見人とは
市民後見人は、「弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士、行政書士、精神保健福祉士及び社会保険労務士以外の自然人のうち、本人と親族関係(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)及び交友関係がなく、社会貢献のため、地方自治体等が行う後見人養成講座などにより成年後見制度に関する一定の知識や技術・態度を身に付けた上、他人の成年後見人等になることを希望している者」*4とされる。つまり、弁護士、司法書士等の専門職以外で、本人と交友関係のない一般市民が地元の市町村等において成年後見制度に関する所定の研修*5を受講することにより、家庭裁判所から選任されて自身の親族以外の後見業務を行う仕組みだ(図表3)。
市民後見人が行う主な業務は、専門職と同様に本人の財産管理と身上保護であり、本人にとって最も良い生き方ができるように生活を支え、意思決定を支援するための大きな権限を持つとともに、善管注意義務の責任も負うことになる。
市民後見人は専門職との違いにおいて、専門職が財産管理に偏重した後見業務になりやすい、との指摘がある一方で、市民後見人は本人の身近に居住し、頻繁な訪問を通じて信頼関係を築きやすい。また、地域における介護保険サービス等、社会資源を熟知したうえで、後見業務ができる点が最も大きな強みといえる*6。つまり、専門職と比べて、市民後見人には本人の生活に寄り添った市民目線で、身上保護により重点を置いた後見業務を期待されている。
従って、市民後見人が選任されるケースは、本人の財産が高額ではなく(債務超過ではなく、概ね預貯金が1,000万円未満)、親族間での紛争性がなく、後見業務を行うにあたり高い専門性を必要とせず、日常的な金銭管理や安定的な身上保護が中心の案件が想定されている。
今後、更なる高齢化の進展に伴う認知症高齢者の増加が予想されるなかで、市民後見人と専門職それぞれの強みを活かした多様な担い手確保が市町村を中心に地域で進められている*7。
*4:最高裁判所「成年後見関係事件の概況-令和5年1月~12月」
*5:研修内容については、厚労省が「市民後見人養成のための基本カリキュラム」として、成年後見制度、民法、介護保険制度等、講義と体験学習合わせて50単位(1単位=60分)にて構成。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/shiminkouken/index.html
*6:厚労省の「市民後見人実態把握調査」(令和4年)において、市民後見人の活動によるメリットとして「生活者の視点と立場で被後見人等と接するため、本人の希望や意思が表出されやすい」、「頻回な訪問により被後見人等の状態変化等を発見しやすい」との評価が50%を超えている(複数回答)。
*7:2012年に老人福祉法第32条2項が改正され、市町村には「民法に規定する後見、補佐及び補助の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るため、研修の実施、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずる」ことが努力義務とされた。
2|市民後見人の活動方法
続いて、市民後見人の具体的な活動方法について見てみよう。市民後見人としての活動は、主に(1)個人受任での活動、(2)法人の支援員としての活動、の2通りがある。
(1) 個人受任での活動
これは、家庭裁判所から選任された市民後見人が、個人で市町村等の支援を受けながら後見業務を行う方式だ。更に、個人受任での活動のなかでも、専門職等による活動支援の有無により、(1)単独選任型、(2)複数選任型、(3)監督人選任型の3つのスタイルに分かれる。
(1) 単独選任型:市民後見人が単独で選任されるスタイル
(2) 複数選任型:市民後見人の他に専門職や社会福祉協議会等の後見人等が複数人で選任されるスタイル
(3) 監督人選任型:市民後見人が後見人、専門職や社会福祉協議会等が監督人に選任されるスタイル
それぞれのスタイルにおいて、メリット、デメリットはあるが、(1)単独選任型では後見人1人が本人の全ての身上保護と財産管理を担うため、後見人自身の性格等、特長を活かした柔軟な後見業務を迅速に行うことができる反面、後見業務の責任の重さを全て一人で背負うことになるので、後見人にとっては負担感も大きく、また財産管理の面では監督機能が十分に果たせなくなる可能性が懸念される。
また、(2)複数選任型では、後見業務の負担を複数人で分担し、また必要に応じて専門職の支援が得られることから、本人が介護、財産管理を行うなかで当初は予期していなかったような事態が発生した場合でも、専門職の支援を得ながら安定した後見業務を継続することができる。その反面、複数の後見人間で後見業務の方針について意見が対立した場合などは、意見調整が必要となり、迅速な対応が出来なくなる場面が懸念される。
最後に(3)監督人選任型については、(1)単独選任型、(2)複数選任型それぞれのメリットを取り入れ、必要に応じて監督人である専門職や社会福祉協議会等の支援を得ながら後見人が柔軟に後見業務を行うことができる。また、これら監督人の配置により、後見業務全般の監督機能を高めることも期待できる。一方で、後見人にとっては、監督人への報告業務の負荷や活動に一定の制約が発生することがデメリットとなる。
(2) 法人の支援員としての活動
これは、先ず地域における社会福祉協議会やNPO法人等が法人として後見業務を受任し、市民後見人はこれらの法人と契約をして支援員として活動する方式だ。法人の支援員として活動することにより、複数の支援員や専門職のチームで後見業務を行うことができるため、安定した業務遂行が可能となる。また、後見業務を行うにあたっては金融機関への対応も不可欠となるが、法人の支援員の方が個人よりも金融機関等から認知を得やすい点も活動しやすさのなかでメリットとなる。一方で、デメリットとしては後見業務の方針は法人の意向に従う必要があるため、市民後見人の裁量に一定の制限がかかることがあげられる。
個人受任、法人の支援員いずれの活動方式についてもメリット、デメリットはあるが、本人の権利擁護のために、どのような方法が地域の実情に応じた最適解なのか、市町村では検討・取組みが行われている。
3|市民後見人の活動状況と受任実績
それでは、今までの自治体における市民後見人の養成状況と後見業務の受任状況について確認してみよう。2023年4月1日時点までの全国自治体における市民後見人の累計養成者数は23,323人となっている(図表5)。
ここで注目すべきことは、実際に後見人として活動することを希望する登録者数は、養成者数の35.2%となるわずか8,202人であり、更に実際に後見人として受任している者は養成者の8.2%となる1,904人しかいないことだ。法人後見の支援員として従事している2,608人と合わせても、養成者数全体の2割弱しか後見人として活動をしていないのが実態で、残念ながら養成者を十分に活かしきれていない状況だ。
このように、市民後見人の活用が進まない背景には、未だ自治体において市民後見人の養成に十分に取り組めていないことが挙げられる。厚労省の調査*8によると、市町村1,741団体のうち、2023年度における市民後見人の養成等の実施有無を尋ねたところ、わずか418団体(24.0%)しか実施していなかった。
また、第二期成年後見制度利用促進基本計画では、全国どの地域においても必要な人が成年後見制度を利用できるよう、地域連携ネットワーク*9づくりを進めているが、そのなかで市町村の役割として、地域連携ネットワークのコーディネート機能を担う中核機関の整備・運営に主体的に取り組むことを求めている。しかしながら、中核機関の整備状況*10をみると、全国の自治体1,741団体のうち、2023年4月1日時点で既に整備している自治体は1,070団体(61.5%)であり、2025年整備予定を含めても1,293団体(74.2%)となっている。とりわけ、自治体の人数規模による整備状況の格差は大きく、50万人以上の自治体では既に100%が整備済だが、1万人未満の自治体では49.7%(2025年予定でも59.2%)に留まっている。
自治体での体制整備が未だ整っていない状況は、前述厚労省の調査で市民後見人の受任にあたっての課題でも確認できる(図表6)。最も多かった回答は、「市民後見人の受任が適当であるケースが少ない」で59.9%だが、「市民後見人本人が受任への不安を感じている」が48.7%、「関係機関や専門職による支援体制が整っていない」が22.8%、「家庭裁判所との協議が進んでいない」が13.3%となっており、いずれもこれからの体制整備が望まれる。
*8:厚生労働省「令和5年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(概要)」
*9:地域連携ネットワークとは、地域の社会資源をネットワーク化し、各地域において、相談窓口を整備するとともに、支援の必要な人を発見し、適切に必要な支援につなげる地域連携の仕組みをいう。地域連携ネットワークは(1)権利擁護支援チーム(本人に身近な親族、保健・福祉・医療・法律等の専門職等)、(2)協議会(専門職団体、関係団体等)、(3)中核機関(市町村による直営、または委託等。例えば、社会福祉協議会、NPO法人、公益法人等)から成る。
*10:厚生労働省「令和5年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(概要版)」
4|市民後見人の今後の期待
今後、高齢化の進展とともに認知症患者数が増加し、後見制度の担い手不足の課題を解消できなければ、それは高齢者にとって希望する生活を放棄せざるを得ない現実に直結することになる。この課題を解決するには、地域にいる志をもった市民の力を最大限に活用することが有意義であることは間違いない。
一方で、後見業務を行うにあたっては、成年後見制度、介護保険制度、民法等の基本的な知識に加えて、認知症により判断能力が低下した人とのコミュニケーション能力、本人の意思決定支援のための技術、財産管理を行うための事務能力など、幅広い能力が求められる。更に、高齢者の生活では、疾病、ケガ等の予期せぬ事態の発生により、住まいも含めた生活全般が激変する事態も発生しやすく、これらの対応として重大な判断を求められるなど精神的な重圧も大きい。
従って、市民後見人を担い手不足解消の切り札として活用していくには、市民後見人が専門職を含めたチームによる支援を受けて安心して働ける環境を自治体側が整備できるかにかかっていると言えよう。そのような環境が整備できれば、担い手不足の解消だけでなく、現在は想定していないような多少難度の高い案件等への対応へも広げることが出来るものと思われる。
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