(画像はイメージです/PIXTA)

老後資金を増やす手段として知られる、年金の繰下げ受給。しかし、場合によっては、繰下げ受給が不利になるケースもあるなど、単純な話ではありません。今回は、年金の繰下げ受給の失敗事例について、FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

年金繰下げ受給、そもそも長生きしなければ「メリットなし」

生徒:先生、公的年金を受給している高齢者の方々から「繰下げて失敗した」「じっくり検討すべきだった」という後悔の言葉をよく聞きます。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

 

先生:年金の繰下げ受給とは、年金の受給開始時期を65歳よりも後にずらすことで、受給額を増額する制度です。66歳から75歳の間で受給開始時期を遅らせることができます。これによって、繰下げ期間1ヵ月につき0.7%ずつ受給額が増額し、それを生涯変わらず受け取ることができます。5年間繰下げるとすれば、0.7%×12ヵ月×5年=42%も増額されることになります。

 

生徒:私も70歳まで繰下げるつもりです!

 

先生:繰下げ受給を行っても後悔するケースというのは、せっかく繰下げ受給を行ったのに、早くに亡くなってしまうことでしょう。例えば、70歳まで受給を繰下げたとしましょう。その場合、受取り総額で65歳受給開始した人を上回るには、82歳まで生きる必要があります。男性の場合、平均寿命である81歳で亡くなれば、繰下げ受給したことで受取り総額が少なくなってしまいます。

 

生徒:では、なんとしてもがんばって、82歳よりも長生きする必要がありますね!

その1:厚生年金の繰下げで「加給年金」がもらえなくなる!?

先生:それだけではありません。厚生年金を繰下げると、加給年金が受け取れなくなるのも不利な点だといえます。

 

生徒:加給年金とは何ですか?

 

先生:加給年金とは、65歳になったときに扶養する配偶者や子どもがいる場合、老齢厚生年金に上乗せされて支給される年金のことです。年下の配偶者がいれば、年額22万円から39万円くらい、未成年の子どもがいれば、1人目と2人目が年額22万円、3人目以降は年額7万5,000円もらえます。いわば「年金における家族手当」のような制度ですね。

 

生徒:それがどうして不利になるのでしょう?

 

先生:加給年金をもらえるのは、配偶者が65歳になるまでの期間となっていて、年金受給開始を繰下げると、加給年金をもらえる期間が短くなるからです。ですから、厚生年金の繰下げは行わず、基礎年金だけ繰下げを行えばよいでしょう。

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