(※画像:うぐいす/PIXTA)

誰でもイラストレーター並みの絵を出力できるとして話題の「画像生成AI」。活用が進む一方で、著作権上の問題についても懸念されています。「生成した画像が第三者の絵柄と似ていたらアウトか?」というのもその一つで、一時期は「絵柄の窃盗」や「絵柄の私物化」という表現とともに激論が交わされました。AIイラストは著作権侵害にならないのでしょうか。また、著作権侵害になる場合があるとして、それはどのような場合なのでしょうか。五十嵐良平弁護士が考え方のポイントを解説します。

AI画像を出力したら、絵柄が第三者と似ていた…はアウト?

画像生成AIが次々と発表され、大きな話題を呼んでいます。みなさんも、使ったことがあるのではないでしょうか。

 

私からは、主に著作権を取り上げて、法律の観点から画像生成AIに関連する議論を紹介していきたいと思います。AIと著作権に関する議論は、AIを作る段階(学習段階)とAIを利用する段階(利用段階)に分けて論じることがわかりやすいと思っていますので、以下ではそれに沿って議論を紹介していきます。この記事では、「絵柄が似ている」イラストが生成されるケースを取り上げつつ、利用段階の議論をみていきましょう。

画像生成は他人の著作権を侵害するか?

(1)「他人の著作物で作った学習データ」による画像生成は、著作権を侵害しないか

AIを使って画像を生成することは、著作権侵害にならないのでしょうか。また、著作権侵害になる場合があるとして、それはどのような場合なのでしょうか。

 

著作権の中身には様々なものがあり、一般的には著作権侵害の態様も様々ですが、ここでは、著作物と「絵柄が似ている」画像が生成されるケースを念頭に、複製権または翻案権の侵害となる場合を見ていきます。

 

複製権または翻案権の侵害があるというためには、①生成された画像が、既存の著作物と同一である(複製権侵害のケース)か、または類似している(翻案権侵害のケース)場合であって、かつ、②生成された画像が、既存の著作物に依拠していることが必要です。

 

注意が必要なのは、ここにいう「類似している」というのが、単に似ていることを指す言葉ではないということです。著作権侵害が成立するために必要な「類似」とは、「表現上の本質的な特徴の同一性を維持」していて「これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる」ものをいい、単に「作風」が似ているものはこれに該当しないと考えられています。

 

これは、作風といったアイディアまで保護されてしまうと、それ以後の者は同じあるいは類似の作風を発表できなくなるおそれもあり、表現の発展を阻害することになりかねないことに配慮したものです。著作権法は、作風自体を保護するよりも、他の者がその作風を利用して別個の新たな表現を創作する(その作風に触発された多くのイラストを生み出す)ことへのインセンティブを与えるほうが、文化の発展に資すると判断しているともいえます。

 

したがって、単に「作風」が似ているに過ぎない画像を生成したとしても、著作権侵害には該当しません。自らの画風に近しい画像が生成されることへの不快感は確かに理解できるものですが、少なくとも日本の著作権法との関係でいえば、作風自体には著作権の保護は及ばないため、作風が似ているからといって、直ちに当該クリエイターの著作権を侵害することにはならないということになります。

 

他方、「表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる」レベルで既存の著作物に類似する画像を生成した場合、生成にあたって既存の著作物に依拠しているとされるときには、著作権侵害に該当します。なお、「表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる」ものであるのか、単に「作風」が似ているに過ぎないのかは、明確な線引きがあるわけではないため、具体的な事情に応じてケース・バイ・ケースで判断され、争いとなることも多いポイントであることには注意が必要です。

 

したがって、画像について単に「絵柄が似ている」というレベルを超えて、「表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる」レベルで「類似」している場合には、「依拠」性が問題となります。ここで「依拠」性も肯定される場合には、著作権侵害が成立します。

 

どのような場合が既存の著作物に依拠しているとされるかについては、(i) AI利用者が既存の著作物を知っていて、当該既存の著作物に類似する画像を生成することを狙ってAIを使用して画像を生成した場合は依拠しているといえますが、他方で、(ii) AI利用者が当該既存の著作物に類似する画像を生成しようとしたわけではなく、学習データに既存の著作物のデータやそこから得られたパラメータが含まれていたために、たまたま類似画像が生成されたような場合、依拠しているといえるか(すなわち、著作権侵害となるか)という点は、現時点でははっきりしないように思われます。

 

(2)「画像生成のための指示」に他人の著作物を利用することはできるか?

この他に、img2img*の方法でAIを利用する場合には、画像生成のための指示に他人の著作物を利用するケースも想定されます。このように、画像生成のための指示に他人の著作物を利用することは、当該他人の著作権を侵害することになるのでしょうか。

 

*AIを使った画像生成の方法には「txt2img」と「img2img」がある。「txt2img」がテキストから画像を生成する〔=text to image〕一方、「img2img」は画像から新しい画像を生成する〔=image to image〕。)

 

まず、AIが稼働するサーバに指示のために画像を読み込ませる行為は、「複製」に該当しうるため、この点を検討してみたいと思います。

 

ここにいう「複製」とは、著作物を有形的に再製する行為を指し、サーバに記録することも含まれていると解されています。もっとも、「有形的に再製」したといえるためには、記録されている状態がある程度永続的であることを要し、キャッシュへの蓄積等の一時的蓄積は含まないという議論もあります。

 

一時的蓄積では足りないとすると、AIへの指示のために入力した画像がサーバにどの程度保存されているのかによって結論が変わるように思われますが、この点は外部からはわかりづらいところですので、現時点ではっきりとした結論を持つことは難しいように思います。他方、一時的蓄積でも複製に該当すると解釈されるのであれば、複製行為があることとなり、AI利用者が個人であって私的利用のための複製等といえない限り、著作権侵害に該当するおそれがあります。

 

また、この議論は、ローカル環境でAIを使用することを想定していますが、AIへの指示のために入力した画像がインターネットを通じて外部に公開されるような場合には、他人の著作物をインターネット上において無断で公開した場合と同様、公衆送信として著作権侵害に該当する余地もあると考えられます。

 

このように、画像生成のための指示に他人の著作物を利用する場合には、それ自体が「複製」や「公衆送信」として著作権侵害行為となる可能性があります。

 

また、画像生成のための指示に他人の著作物を利用してしまうと、その結果、「類似」する画像が生成された場合には、元の画像に「依拠」していることにもなりますので、指示行為だけでなく、生成された画像の利用が著作権侵害行為となる可能性もあります。

線引きが難しいからこそ、「要注意な使い方」を押さえよう

ここまで見てきたように、AIを使って生成したイラストが、単に他の画像と「絵柄が似ている」ということだけでは、著作権侵害にはならないことになります。また、単に他の画像と「絵柄が似ている」というレベルを超えて、「類似」している場合には、著作権侵害となる可能性がありますが、「依拠」したといえるかは検討が必要です。

 

もっとも、画像を生成するためのAIへの指示に他人の著作物を使用してしまうと、その指示行為自体が著作権侵害となるおそれがあるほか、生成された画像がその著作物と「類似」している場合に、「依拠」もしていると考えられますので、著作権侵害となる危険性が高まります。このような使い方は避けていただくことがよいと考えられるでしょう。

 

 

五十嵐 良平

日本橋川法律事務所 弁護士、第一東京弁護士会所属

 

1992年生まれ。2017年に弁護士登録後、アンダーソン・毛利・友常法律事務所、山下総合法律事務所を経て独立し、2021年に日本橋川法律事務所を設立。顧客の事業に伴走するような形をとりながら、主にIT系のベンチャー企業・スタートアップ企業を中心に、Exit支援やそれに向けた法務サービスを提供し、コーポレートや契約法務、広告規制、知的財産権に関する案件を多数取り扱っている。

 

 

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