画像生成AIの台頭で絵描き界隈に波紋
画像生成AIが次々と発表され、大きな話題を呼んでいます。みなさんも、使ったことがあるのではないでしょうか。
私からは、主に著作権を取り上げて、法律の観点から画像生成AIに関連する議論を紹介していきたいと思います。AIと著作権に関する議論は、AIを作る段階(学習段階)とAIを利用する段階(利用段階)に分けて論じることがわかりやすいと思っていますので、以下ではそれに沿って議論を紹介していきます。この記事では、イラストに「AI学習禁止」と記載するケースを取り上げつつ、学習段階の議論をみていきましょう。
AIに「他人の著作物」である画像を学習させることの是非
(1)「AI学習禁止」と記載することに意味はある?
画像生成AIが大きく話題となったことに伴い、イラストレーターの方々が「私がX(旧Twitter)に載せているイラストのAI学習は一切禁止とします」といった表明をするケースもみられます。このように、画像の著作権者が、自分の絵はAIの学習に使わないでほしい旨を表明していた場合はどうなるのでしょうか。
この問題の答えを見つけるためには、著作権法の規定がどのようになっているのか、順を追ってみていく必要があります。
(2)原則として「情報解析」の用に供する場合には許されるとされていること
AIの学習段階では、大量の画像を利用して、学習用データセットを作成し、機械学習を行うことになります。これらの画像の中には、もちろん、他人の著作物が含まれることになると考えられます。このような場合、著作権者に無断で著作物を利用して学習を行わせることは、著作権者の持つ著作権を侵害することになるのでしょうか。
カギになるのは、著作権法第30条の4第2号の規定です。著作権法第30条の4第2号は、以下のように定めています。先端技術の法的な取扱いについては、「法律が技術に追いついていない」こともありますが、AIの学習に著作物を利用することに関していえば、すでに一定の立法的な解決が図られているということです。
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【第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)】
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
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ここにいう「情報解析」とは、「大量の情報の傾向や性質といった何らかの特徴などを明らかにするために、当該情報から要素を抽出し、比較、分類するなどの方法によって調べること」と解されています。具体例を挙げると、「著名な画家の画風を真似るAIを開発するために、著名な画家の作品を機械学習する行為」や、「猫の画像を認識することを目的としてAIに大量の猫の画像を深層学習(ディープラーニング)させ、猫の画像からそれらに共通する特徴を抽出して、特徴量を把握する行為」などが該当するとされています。
画像生成AIを作るために、AIに大量の画像を学習させることは、ここにいう「情報解析」の用に供する場合に該当すると解されているため、原則として、著作権の侵害にはなりません。
(3)例外的に「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」とは?
上記のとおり、原則論としては、「情報解析」のために他人の著作物を利用したとしても、著作権の侵害にはなりませんが、著作権法第30条の4は、例外として、「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」と定めています。
この「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」とは、どのような場合でしょうか。
これに該当するかが議論となるものとして一応想定できるのは、「特定の作者の画像のみを学習させることで、当該作者の作風を表現できるAIを作ったとしたら」というケースです。
もっとも、「作風」自体の類似は、AIにかかわらず、著作権侵害とは考えられていません。そのため、作風を模倣するAIが作られたとしても、筆者としては、直ちに「著作権者の利益を不当に害する」とは言い難いように思います。
(4)もし「AI学習禁止」を実現させるのであれば“合意”が必要
冒頭のケースのように、画像の著作権者が、自分の絵はAIの学習に使わないでほしい旨を表明していた場合であっても、法的には、著作権者の表明により学習への利用が禁止されるものではなく、このような表明は、「お願い」以上の意味を持たないと考えられます。
これは、上記のとおり、著作権法第30条の4第2号の規定が「情報解析」のための使用を許しているからです。
もっとも、当事者間(この場合では、AI開発者とイラストレーターとの間)で、当該イラストをAI学習に使用しないという契約が成立するのであれば、当該契約に基づき、AI学習への利用を禁止することが可能な場合も、理論的には考えられます(とはいえ、個別の事情によっては、このような合意が無効となるという見解すらあります)。
しかしながら、権利者が一方的に「禁止」を表明するだけでは、合意があったとはいえません。利用を禁止するためには、少なくとも、相手方の明示的な合意が必要になると考えられます。
このような合意を取り付ける仕組みとしては、例えば、独自の会員サイトを作り、ログイン後のページでのみイラストを閲覧できるようにしたうえで、会員登録の際に「学習禁止」を盛り込んだ利用規約を表示して、同意のチェックボックスにチェックを入れさせる方法が想定できますが、実際にここまでやるのはあまり現実的ではないように思います。
また、実際にAI学習のための画像を収集する際には、手作業で画像を閲覧・ダウンロードしていくわけではなく、プログラムを作ってスクレイピングすることが多いと思います。そうすると、利用規約に合意したことはなく、プログラムが勝手に集めてきたに過ぎないと言われないための対策も必要と考えられます。例えば、ログイン後のページをスクレイピングされないような技術的な対策も必要になるでしょう。
このように、自分のイラストをAI学習に使われたくないという要望を実現するのは、イラストをインターネット上で公開する以上は、あまり現実的ではないように思われ、なかなかに難しいことといえます。
“AI学習に使われたくない”という要望の実現はなかなか難しい
ここまで見てきたように、AIの学習に著作物を利用することに関していえば、すでに一定の立法的な解決が図られており、その内容は、いわばAIの開発を後押しするものといえます。
既存のイラストの著作権者からすると、勝手に学習されてしまうことを止めるのは簡単ではなく、釈然としない思いを抱かれる方もいるかもしれませんが、法律がこのように「開発を後押しする」スタンスでいることも相まって、今後、画像生成AIはさらに普及していくと考えられます。
五十嵐 良平
日本橋川法律事務所 弁護士、第一東京弁護士会所属
1992年生まれ。2017年に弁護士登録後、アンダーソン・毛利・友常法律事務所、山下総合法律事務所を経て独立し、2021年に日本橋川法律事務所を設立。顧客の事業に伴走するような形をとりながら、主にIT系のベンチャー企業・スタートアップ企業を中心に、Exit支援やそれに向けた法務サービスを提供し、コーポレートや契約法務、広告規制、知的財産権に関する案件を多数取り扱っている。
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