「世田谷の家はあなたに相続させる、って書いたわよ」70代母に遺言書を託された、3きょうだいの中間子だったが…母の四十九日、まさかの〈どんでん返し〉に絶句

「世田谷の家はあなたに相続させる、って書いたわよ」70代母に遺言書を託された、3きょうだいの中間子だったが…母の四十九日、まさかの〈どんでん返し〉に絶句
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本人の平均寿命が延びる一方、健康寿命との開きをどうするかが課題となっています。親が長生きするのはありがたいことですが、健康不安がある親が、一方的に子どもを頼ろうとすれば緊張が生じ、親子間やきょうだい間に問題が出ることも…。実情を見ていきましょう。

「平均寿命」が延びる一方で「健康寿命」は…

高齢化が進展し、平均寿命も右肩上がりに伸びている日本。しかし一方で悩ましいのが、健康寿命との開きです。令和元年の統計では、その差、男性で8.73年、女性は12.07年。この期間、健康上に何らかの問題を抱えたまま生活することになります。

 

※出所:内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)」
[図表]健康寿命と平均寿命の推移 ※出所:内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)」

 

鈴木さん(仮名)は50代。長男、二男、長女のきょうだい構成の真ん中です。3人とも就職したタイミングで実家を離れて、両親とはずっと別居です。鈴木さんは独身ですが、兄と妹は結婚しています。3人の住まいは、東京都世田谷区の実家から、電車や車で30分程度の距離です。

 

鈴木さんの父親は3年前に80歳で他界。しかし、70代後半の母親はその後も住み慣れた自宅で過ごすことを選び、ひとり暮らしになりました。ところが、母親は心細くなったのでしょうか、しきりに不安や体調不良を訴えるようになり、そのたびに長男の嫁が通って面倒を見ていたのです。

 

「もう! お義母さん、いい加減にしてもらえませんか!? パートとはいえ、私も仕事をしているのですよ。先週の診察では、お医者様に心配ないといわれたでしょう?」

 

ちょっと気分が悪いとか、テレビを見て思いついたことがあると、すぐに長男の嫁に電話していた鈴木さんの母親。ですが、あまりにも頻繁なため、ついには穏やかな長男の嫁が爆発してしまったのでした。

 

ところが母親は、自分の行動を反省するどころか長男の嫁の態度に激怒。

 

「それは悪かったわね、もう結構よ!」

 

兄嫁との関係が悪化した母親は、独身の鈴木さんに連絡を入れるようになりました。

独身の二男、母親から託された「封筒の中身」に驚愕

「まあ、おふくろも年だし、寂しいんだろう…」

 

そんな思いで対応していた鈴木さん。

 

ある日、いつものように呼び出されて自宅に行くと、母親から封筒を渡されました。

 

「遺言書を書いたから、預かってちょうだい。世田谷のこの家は、あなたに相続させる。残ったお金はきょうだいで3等分。そう書いてあるからね。わかったね?」

 

鈴木さんが驚くと、母親は、

 

「長男家族はなにもしてくれない。娘はお小遣いに困ったときしか来ない。だから、こうやって面倒を見てくれるあなたに残すのよ」

 

と、たたみかけ、封筒を鈴木さんの手に押し付けました。

 

それから半年後。鈴木さんの母親は自宅で転倒し、足を骨折して入院してしまいました。

 

鈴木さんは週に2回程度、入院先の病院へお見舞いに行きましたが、ほとんどのタイミングで、妹と顔を合わせることになりました。

 

持参したお見舞いの品を、母親より先に食べようとする妹にイラつく鈴木さんでしたが、病室では、穏やかな時間が流れていました。

母親の急死→四十九日に起こったまさかの事態

しかし、突然の不幸が襲います。入院からしばらくたち、そろそろリハビリを…というタイミングになったとき、なんと鈴木さんの母親は風邪をこじらせ、あっさり亡くなってしまったのです。

 

「どうしてこんなことに…」

 

葬儀はしめやかに終わり、その後、母親の四十九日の法要を行うことになりました。鈴木さんは、兄と妹にあずかった遺言書の話をしなければと思い、なんとも落ち着かない思いでいました。

 

そして、法要の後の食事の席で、話を切り出すタイミングをうかがう鈴木さん。

 

「実は、お袋から遺言書を預かっているんだ」

 

「えっ!?」

 

突然話を切り出したのは、鈴木さんの兄でした。驚いたのは、鈴木さんです。

 

「その、じつは…」

 

「私も遺言書を預かっているわ!」

 

「えっ!?」

 

なんと、妹まで…。鈴木さんの母親は、子ども1人ひとりに遺言書を託していたのです。

3通出てきた遺言書。有効なのは…

後日、鈴木さんのきょうだいは、法律家のアドバイスに従い、遺言書を家庭裁判所に提出して「検認」を請求しました。

 

「検認」とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。

 

検認の結果、いちばん日付が古い遺言書は長男のもので、父親が亡くなって半年後の日付でした。

 

「自宅は長男に相続させる。貯金は3人で平等に分けること」

 

その次に古いのは、鈴木さんのもので、1年前のものでした。

 

「自宅は二男に相続させる。貯金は3人で平等に分けること」

 

そして、いちばん新しい遺言書は、末っ子の妹のもので、半年前のものでした。

 

遺言書が複数発見された場合、有効となるのは、最も新しい遺言です。

 

ここまでの展開を聞いていた妹は、満面の笑みを浮かべていました。

 

「財産は3人で平等に分けること」

 

「……えっ!」

 

妹に託されていた遺言書には、付言事項といって、故人の思いが記されていました。

 

「具合の悪いお母さんを、みんな親身に世話してくれてありがとう。きょうだい仲よく暮らしてください」

 

「おふくろも、思うところがあったんだろうな」

 

「そうだね」

 

母親の思いを、きょうだい3人静かに受け止めることになりました。

 

 

[参考資料]

法テラス「遺言が数通発見された場合には、どの遺言が有効ですか。」

裁判所「遺言書の検認」

 

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